ニュース 判例事例

法律のひろばよりご紹介

意思能力を欠く区分所有者に対する滞網管理費等の請求や回収等の法的手続は、どのように進めればよいか

ー札幌地裁平成31年1月22日判決の解説一

はじめに

本件は、平成30年6月、A管理組合が、区分所有者Bに対し、長期間にわたり滞納している管理費や修繕積立金の支払いを求めるとともに、滞納管理費等を回収するため、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます。)59条1項に基づく競売を求めて訴訟を提起したという事例です。
特に、本件において問題となったのは、区分所有者Bは、当時、90歳と高齢で、平成16年から高度障害を有する人が人所する特別養護老人ホームに入所し、平成28年5月頃からは、極めて要介護度が高く会話をすることすら難しい状態で、適切に物事を判断する能力を欠いた状態であったという点です。

成年後見制度について

step
1

  

   本件の場合、 区分所有者Bに成年後見人は選定されていませんでした。仮に、区分所有者Bにつき、成年後見人の選任がなされていたのであれば、A管理組合は、成年後見人に対し訴訟を提起したり、訴訟外においても、区分所有者Bに代わって、財産管理に関する様々な手続をとるよう求めることも可能でした。

step
2

    それでは、本件のように、管理組合が、物事の判断能力を欠く状態にある区分所有者に対し滞納管理費等を請求する場合、管理組合が申立人となって、その区分所有者について、成年後見人の選任を求めることはできるのでしょうか。
そもそも、成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等の精神上の障害により本人の判断能力が欠けていることが通常の状態であり、自分の財産を管理・処分できない状態となった場合、本人の財産を守るため家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。
そして、成年後見人は、その職務として、被後見人(後見を受ける本人)の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮しながら診療、介護サービスなどの利用契約を締結したり、預貯金の出し入れや不動産の管理を行う等、本人の財産の管理のために必要なことを、本人に代わって行わなければなりません。
そのため、成年後見人には、被後見人の財産についての財産管理権、包括的代理権という強力な権限が付与されますが、一方で、被後見人本人の財産管理権は大きく制限されることになるため、成年後見人選任の申立てができる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、本人の成年後見人等、市区町村長、検察官に限定されています。
本件の場合、A管理組合が区分所有者Bに対し滞納管理賀等の支払請求をしていますので、法的立場としては、A管理組合は債権者、区分所有者Bは債務者ということになります。上記のとおり、債権者は、成年後見人の選任申立てをすることはできませんので、A管理組合は、区分所有者Bについて成年後見人の選任の申立てをすることはできません。

step
3

    それでは、このように、ある区分所有者の判断能力に問題があり、成年後見人が選任された方が良いと思われる場合、管理組合として、何らかの対応はできないものでしょうか。 このような場合、管理組合から、その区分所有者の配偶者や子などの親族に対し、成年後見人選任の申立てをするよう促してみるという方法を検討してみても良いかも知れません。 その区分所有者について成年後見人が選任されれば、滞納管理費等を成年後見人に対し請求できるなど、管理組合にとって都合が良いばかりではなく、例えば、その区分所有者が居住もせず使用予定もないまま放置しているマンションを、成年後見人が区分所有者に代わって売却し、その代金を生活費、介護賀用、施設使用料などに充てることにより親族が生活費等を負担していた場合はその負担が軽減されるなど、親族にとって良い面もあります。

このように、判断能力の欠ける区分所有者の親族に対し、成年後見人選任申立てを勧めることは、管理組合にとってのみならず、親族にとっても一定のメリットがあり、一概に申立てを拒まれる場合ばかりではありません。

特別代理人の選任申立て

step
1

    ところで、本件のように、物事の判断能力を欠く区分所有者Bにつき、成年後見人が選任されていない場合、このままA管理組合が区分所有者Bを被告として裁判所に訴訟を提起したとしても、被告に当事者巡格がなく民事訴訟法上の訴訟要件を欠くものとして裁判所により請求が却下されてしまいます。

step
2

    この点につき、民事訴訟法35条は、法定代理人がない場合、被後見人(後見を受ける本人)に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害が生じるおそれを疎明し、裁判所に対し、特別代理人の選任の申立てをすることができると規定しています。 そして、この民事訴訟上の特別代理人は、裁判所から選任を受けた事件については、本人の法定代理人として、本人と同一の権限を有します。
ただし、離婚など一身専属的で代理に親しまない行為については、特別代理人としての権限が及ばないものと解されています。

step
3

    したがって、本件のように、管理組合が意思能力を欠く管理費等滞納者に対し、その支払請求訴訟を提起するなど裁判所における法的手続を利用する場合には、特別代理人の選任を求め法的手続を進める必要があります。 本件においても、A管理組合は、区分所有者Bに対し、滞納管理費等の支払請求訴訟および区分所有法59条1項に基づく競売を求める訴訟を提起する際、併せて、区分所有者Bについて、特別代理人の選任を求める申立てを行い、特別代理人として弁護士Cが選任されました。

本件訴訟の争点

step
1

    以上のとおり、本件訴訟において、区分所有者Bの判断能力の有無に起因した民事訴訟の手続上の問題については、A管理組合が、裁判所に対し特別代理人の選任を求め弁護士Cが特別代理人に選任されたため、解消されました。

step
2

    それでは、本件のように、管理組合が、物事の判断能力を欠く状態にある区分所有者に対し滞納管理費等を請求する場合、管理組合が申立人となって、その区分所有者について、成年後見人の選任を求めることはできるのでしょうか。 そもそも、成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等の精神上の障害により本人の判断能力が欠けていることが通常の状態であり、自分の財産を管理・処分できない状態となった場合、本人の財産を守るため家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。 そして、成年後見人は、その職務として、被後見人(後見を受ける本人)の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮しながら診療、介護サービスなどの利用契約を締結したり、預貯金の出し入れや不動産の管理を行う等、本人の財産の管理のために必要なことを、本人に代わって行わなければなりません。 そのため、成年後見人には、被後見人の財産についての財産管理権、包括的代理権という強力な権限が付与されますが、一方で、被後見人本人の財産管理権は大きく制限されることになるため、成年後見人選任の申立てができる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、本人の成年後見人等、市区町村長、検察官に限定されています。 本件の場合、A管理組合が区分所有者Bに対し滞納管理賀等の支払請求をしていますので、法的立場としては、A管理組合は債権者、区分所有者Bは債務者ということになります。上記のとおり、債権者は、成年後見人の選任申立てをすることはできませんので、A管理組合は、区分所有者Bについて成年後見人の選任の申立てをすることはできません。

step
3

    それでは、このように、ある区分所有者の判断能力に問題があり、成年後見人が選任された方が良いと思われる場合、管理組合として、何らかの対応はできないものでしょうか。 このような場合、管理組合から、その区分所有者の配偶者や子などの親族に対し、成年後見人選任の申立てをするよう促してみるという方法を検討してみても良いかも知れません。 その区分所有者について成年後見人が選任されれば、滞納管理費等を成年後見人に対し請求できるなど、管理組合にとって都合が良いばかりではなく、例えば、その区分所有者が居住もせず使用予定もないまま放置しているマンションを、成年後見人が区分所有者に代わって売却し、その代金を生活費、介護賀用、施設使用料などに充てることにより親族が生活費等を負担していた場合はその負担が軽減されるなど、親族にとって良い面もあります。 このように、判断能力の欠ける区分所有者の親族に対し、成年後見人選任申立てを勧めることは、管理組合にとってのみならず、親族にとっても一定のメリットがあり、一概に申立てを拒まれる場合ばかりではありません。

区分所有法59条1項に基づく競売請求の要件

step
1

    それでは、本件のように、管理組合が、物事の判断能力を欠く状態にある区分所有者に対し滞納管理費等を請求する場合、管理組合が申立人となって、その区分所有者について、成年後見人の選任を求めることはできるのでしょうか。 そもそも、成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等の精神上の障害により本人の判断能力が欠けていることが通常の状態であり、自分の財産を管理・処分できない状態となった場合、本人の財産を守るため家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。 そして、成年後見人は、その職務として、被後見人(後見を受ける本人)の意思を尊重し、心身の状態や生活状況に配慮しながら診療、介護サービスなどの利用契約を締結したり、預貯金の出し入れや不動産の管理を行う等、本人の財産の管理のために必要なことを、本人に代わって行わなければなりません。 そのため、成年後見人には、被後見人の財産についての財産管理権、包括的代理権という強力な権限が付与されますが、一方で、被後見人本人の財産管理権は大きく制限されることになるため、成年後見人選任の申立てができる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、本人の成年後見人等、市区町村長、検察官に限定されています。 本件の場合、A管理組合が区分所有者Bに対し滞納管理賀等の支払請求をしていますので、法的立場としては、A管理組合は債権者、区分所有者Bは債務者ということになります。上記のとおり、債権者は、成年後見人の選任申立てをすることはできませんので、A管理組合は、区分所有者Bについて成年後見人の選任の申立てをすることはできません。

step
2

    それでは、このように、ある区分所有者の判断能力に問題があり、成年後見人が選任された方が良いと思われる場合、管理組合として、何らかの対応はできないものでしょうか。 このような場合、管理組合から、その区分所有者の配偶者や子などの親族に対し、成年後見人選任の申立てをするよう促してみるという方法を検討してみても良いかも知れません。 その区分所有者について成年後見人が選任されれば、滞納管理費等を成年後見人に対し請求できるなど、管理組合にとって都合が良いばかりではなく、例えば、その区分所有者が居住もせず使用予定もないまま放置しているマンションを、成年後見人が区分所有者に代わって売却し、その代金を生活費、介護賀用、施設使用料などに充てることにより親族が生活費等を負担していた場合はその負担が軽減されるなど、親族にとって良い面もあります。 このように、判断能力の欠ける区分所有者の親族に対し、成年後見人選任申立てを勧めることは、管理組合にとってのみならず、親族にとっても一定のメリットがあり、一概に申立てを拒まれる場合ばかりではありません

裁判所の判断

step
1

  すると、区分所有法59条に基づく競売請求の総会決議をするに当たり、競売対象の区分所有権を有する区分所有者に対し、弁明の機会を付与したというためには、単に形式的に通知をしただけでは足りず、通知を受けた区分所有者が、その通知の内容を理解し、判断をする能力を有していなければ、反論する機会が提供されたとはいえないことになります。

step
2

    この点につき、裁判所も、区分所有法59条2項が、同法59条1項に碁づく競売請求の訴えの提起について決議をするに当たり、当該区分所有権者に弁明の機会を付与することとした趣旨は、同請求が当該区分所有者の区分所有権に与える影響の重大性に鑑み、当該区分所有者に確実に反論の機会を与えるという点にあるから、この弁明の機会は、単に形式的に、当該区分所有者の住所地に、弁明の機会を付与する旨の通知が届けられただけでは足りず、当該区分所有者において、その内容を了解することができるだけの能力を有していることが必要と解されるとして、平成30年3月30日開催の臨時総会において行われた決議は、区分所有者Bに対する弁明の機会を付与しないまま行われた瑕疵ある決議であると判断しています。

step
3

    もっとも、A管理組合は、本件訴訟提起後の平成30年10月26日、区分所有者Bの特別代理人である弁設士Cに対し、①同年11月19日開催予定の管理組合の臨時総会において、本件競売請求訴訟を続行する件について決議をする予定であること、そして、②この件に関し、弁護士Cは、区分所有者Bの代理人として、臨時総会に出席して弁明するか、もしくは、臨時総会の前日までに弁明書を提出する方法で対応して欲しいとする文書を郵送しました。 この点につき、弁設士Cは、この場合における弁明行為は、特別代理人の権限の範囲外であり、上記の通知は、区分所有者Bに弁明の機会を与えたことにはならないと主張しました。 しかし、裁判所は、弁明の機会の付与は、区分所有法59条1項の競売請求の前提である手続法上の要件の1つであり、競売請求はあくまで財産法上の請求であり、その前提としてなされる弁明行為は、本人の自由な意思に基づく一身専属的な身分行為のように代理に親しまないものではなく、民事訴訟法上の特別代理人の権限の範囲内に属するものであると判断し、平成30年10月26日付の弁護士Cに対する通知により、区分所有者Bに対する弁明の機会が付与され、同年11月19日の臨時総会において、本件競売請求訴訟の続行の決議が得られたことにより、平成30年3月30日の臨時総会決議の瑕疵は治癒されたと判断し、A管理組合の区分所有者Bに対する滞納管理費等支払請求および区分所有法59条1項に基づく競売請求を認める判決をしました。

おわりに

今後、高齢化社会の進展とともに、マンションの区分所有者においても、高齢化が進み、適切な判断能力を欠く人の割合が増えていくのは避けられないでしょう。
管理組合として、管理質等の滞納や、共用部分におけるトラブルなどが生じた場合、物事を判断する能力を欠いた当事者に対し、どのような対応をすべきか、実務の参考になれば幸いです。

マンション管理センター通信 2020.7

グリーンヒル法律特許事務所弁護士 牧山美香氏

-ニュース, 判例事例