マンション管理の基礎知識

相続人不存在のマンションの処理

相続人不存在のマンションの処理 ー相続財産管理人との交渉についてー

はじめに

最近、マンションの老朽化と区分所有者の高齢化という2つの老いが問題となっています。

高齢の区分所有者が亡くなった後、相続人が不存在となり、管理費等の滞納が発生するという問題も生じます。

今回は、相続人不存在による管理費等滞納問題への対処方法について考えてみましょう。

相続人が不存在に

実務上、区分所有者が死亡し(不動産登記上の名義はそのままで)、管理費等の滞納が発生し、かつ相続人となるべき者全員が相続を放棄して相続人が不存在となっていることがあります。

相続人が不存在となっている場合、利害関係人または検察官は、家庭裁判所に対し相続財産管理人の選任を請求することができます。

しかし、長期にわたって相続財産管理人が選任されない(誰も請求しない)状態は珍しくありません。

管理費等の滞納の解消および組合運営の円滑化を図りたい管理組合としては、このような状態は好ましいことではありません。

そこで、管理組合が、利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立てることがあります。

 予納金(例えば、東京家庭裁判所の場合は100万円程)が必要となりますので注意が必要です。

次に、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されると、同管理人が相続財産を調査します。

調査の結果、各債務(未納管理費等を含む。)の額を上回る預貯金等が存在しているような場合には、相続財産管理人から管理組合に対し早々に未納管理費等が支払われ、また毎月発生する管理費等についても随時支払われ、さらに並行してマンションの処分(任意売却)も進められ、結果的に、管理組合の目的(管理費等の滞納の解消および管理組合運営の円滑化)が容易に達成できるケースも存在します。

また、マンションの任意売却代金から未納管理費等の債務一切が清算され、結果的に管理組合の目的が容易に達成できるケースも存在します。

しかし、元々相続人となるべき人(全員)が相続放棄している場合には債務超過となっていることが多いため、管理組合の目的が容易に達成できないことは少なくありません。

相続財産管理人と折衝の事例

次に、相続財産管理人の選任を申し立てた管理組合として苦労したケースをいくつか紹介します。

なお、私の立場は、いずれも管理組合の代理人に当たります。

未納管理費等支払債務の一部を免除したケース

相続財産として当該マンションしか見当たらず、未納管理費等も多額となっている場合、管理組合としては、相続財産管理人にできるだけ早く当該マンションを売却してほしいところです。

しかし、マンションの買主側としては、購人後、特定承継人(区分所有法8条)として、管理組合から多額の未納管理費等の支払いを求められるとすれば、当該マンションの購入を躊躇します。

そのようなとき、相続財産管理人から管理組合に対し、「管理組合が一定の未納管理費等の支払債務を免除すれば、当該マンションを売却することができる。そうでないと売却することができない」旨の話が伝えられることがあります。

その場合、管理組合側でば慎重に検討し、総会決議を経た上で一定の未納管理費等の支払債務を免除することにして、相続財産管理人に売却を進めてもらったケースがあります。

ちなみに、このような場合の管理組合総会決議は、原則として普通決議で足りると考えます(東京高裁平成30年7月26日判決、東京地裁平成30年2月27日判決参照

管理費等の支払請求権は、総会の決議で免除することができ、当該管理組合の収支の規模などに照らせば、当該管理費等の免除は、共用部分の管理に関する事項として区分所有法18条1項により普通決議で決せられると判断された事例。

管理組合法人がマンションを譲り受けたケース

仮に管理組合側が未納管理費等の支払債務を免除するとしても、買主が見つからない場合もあります。

例えば、未納管理費等が極めて多額となっており、相続財産としては当該マンションしか見当たらない一方で、当該マンションの汚損破損が著しく、評価額(時価)も非常に低くなっている(ゼロに近い)場合です。

そのような場合、管理組合側が(管理組合法人として)、相続財産管理人から当該マンションを譲り受けたケースがあります。

ちなみに、このような場合の管理組合の総会決議は特別決議が必要です。

管理組合において形式競売を申し立てたケース

前記のような解決すら困難な場合もあります。

例えば、管理組合に優先する債権者(抵当権者)が任意売却を承諾しない場合です。

もちろん、任意売却が進まなくても、抵当権者は自ら抵当権を実行(担保不動産競売中立て)することができますし、管理組合としても特定承継人が出現すればその特定承継人に対し区分所有法8条の規定に基づき未納管理費等を請求できますので、抵当権の実行自体は管理組合にとって悪い話ではありません。

しかし、抵当権者が競売申立てをしない場合、あるいは競売申立てをしてもそれが奏功しない場合には問題が生じます。

(※ 3) 実際、抵当権者による競売申立てが費用無剰余(買受可能価額が手続費用見込額を超えず、抵当権者が無剰余取消回避の措置も取らなかったこと。)により取り消されたケースがあります。

なお、そのようなケースにおいて、仮に管理組合が先取特権(区分所有法7条)を実行(担保不動産競売申立て)しても無剰余(買受可能価額が手続費用および優先債権の見込合計額を超えないこと。)を理由に取り消されてしまいます。

そのような場合、管理組合として区分所有法59条に基づく手続を進めたケースがあります。

具体的には、区分所有法59条所定の手続(相続財産管理人に対する弁明の機会の付与や総会の特別決議)を経て、管理組合の管理者が相続財産管理人を被告として訴訟提起し、確定判決を得て、その確定判決に基づいて競売(いわゆる形式競売)を申し立て、その後、管理組合を法人化して(管理組合法人として)当該マンションを買い受けたケースがあります。

補足すると、区分所有法59条に碁づく競売申立ての場合、碁本的には無剰余取消しはありません。

しかし、買受可能価額がいくら低くても(例えば8,000円でも)買受人が現れないことがありますので、そのようなとき、管理組合法人による買受けを検討します。

競売による売却なので、当該マンションに設定されていた抵当権は消滅します(民事執行法59条1項)

さいごに

管理組合法人がマンションを取得したケースにおいては、その後、当該マンションを共用施設(倉庫や会議室)として使用したり、第三者に賃貸したり、あるいは第三者に売却したりしているようです。

ところで、「管理組合法人がマンションを取得するのではなく、国庫帰属として国に引き取ってもらえないのか」といった質問を受けることがあります。

これに関しては、私も相続財産管理人と交渉したことがありますが、相続財産管理人の対応は消極的であり、例えば、「処分不能ということで業務終了し、相続財産管理人の選任が取り消されるだけで、国庫では引き取りません」といった回答を受けたこともあります。

このような相続財産管理人の回答の当否は別として、(私が関わったものではありませんが)実際、相続財産管理人から国にマンションが引き継がれた例は存在します。

いただいだ情報によりますと、管理組合側が管理費等滞納分の債権放棄を議決し(国庫帰属前の管理費等を請求しない前提で)、相続財産管理人から国(財務局)にマンションが引き継がれた(つまり国庫帰属となった)例があ
ります。

(マンション管理センター通信 2021.8より)

 

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