マンション管理の基礎知識

管理費滞納等に対応に関する基礎知識-①

管理費滞納等に対応に関する基礎知識-①

~管理費等の収納と管理組合運営~

管理費や修繕積立金(以下「管理費等」といいます。)は、建物の維持管理や管理組合運営のための資金であり、管理費等の確実な徴収は、管理組合がマンションの適正な管理を行う上での根幹的な事項であることから、標準管理規約では、組合員に対し管理費等の納入を義務付けています(25条1項) 。
そして、管理費等の滞納は、管理組合の会計に悪影響を及ぼすのはもちろんのこと、他の区分所有者への負担転嫁等の弊害もあることから、滞納された管理費等の回収は極めて重要であり、管理費等の滞納者に対して必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の1つであるといえます(標準管理規約コメント(以下「コメント」といいます。)60条関係③) 。
標準管理規約別添3「滞納管理費等回収のための管理組合による措躍に係るフローチャート」(以下「フローチャート」といいます。)を踏まえ、管理費等に滞納があった場合の管理組合の対応につき解説いたします。

管理費等の滞納があった場合の請求の範囲

(l) 管理費等の滞納があった場合の請求の範囲

標準管理規約では、組合員に管理費等の滞納があった場合には、遅延損害金や、違約金としての弁護士費用や督促等のための費用も合わせて請求できるものとしています(60条2項) 。

そして、この遅延損害金等については、請求しないことについて合理的事情がある場合を除き、請求すべきものと考えられます(コメント60条関係⑥) 。

(2) 遅延損害金について

金銭債務につき、その履行が遅延した場合などに適用される遅延損害金は、契約等で別に定めがなければ民法が定める利率(法定利率)に従うことになります(民法419条) 。

この法定利率は、年3%を基本としつつ、3年ごとに利率が自動的に見直される変動制が導入されています(具体的な利率は、省令で定められます。)(民法404条) 。
ただし、この遅延損害金の利率は、上記のとおり、契約等で別に定めればその利率に従うことになりますので、管理規約に遅延損害金の定めがあるとき(標準管理規約は、管理費等の遅延に対しては「年利0%の遅延損害金」が発生するとし(60条2項)、遅延損害金の利率を管理規約で定めることを想定しています。)には、滞納管理費等の額に、当該管理規約に定める利率に基づく遅延損害金を加算して請求します。一方、規約がなかったり規約があっ
ても遅延損害金の規定を設けていない管理組合の場合は、民法の法定利率に基づく遅延損害金を加算して請求することになります。
なお、管理規約に定める滞納管理費等に係る遅延損害金の利率の水準については、管理費等は、マンションの日々の維持管理のために必要不可欠なものであり、その滞納はマンションの資産価値や居住環境に影響し得ること、管理組合による滞納管理費等の回収は、専門的な知識・ノウハウを有し大数の法則が働く金融機関等の事業者による債権回収とは違い、手間や時間コストなどの回収コストが膨大となり得ること等から、利息制限法や消費者契約法等における遅延損害金利率(年14.6%)よりも高く設定することも考えられるでしょう(コメント60条関係④)。

(3) 督促等の費用について

管理費等を滞納している組合員に対しては、上記のとおり、督促および徴収に要する費用を加算して請求することができます(標準管理規約60条2項) 。督促および徴収に要する費用としては、次のようなものが考えられます(コメント60条関係⑤)。

ア)配達証明付内容証明郵便による督促の場合は、郵便代の実費及び事務手数料
イ)支払督促申立その他の法的措置については、それに伴う印紙代、予納切手代、その他の実費
ウ)その他督促及び徴収に要した費用

(4) 弁護士費用

管理費等を滞納している組合員に対しては、上記のとおり、違約金としての弁護士費用を加算して請求することができます。
契約関係にある当事者間において、法的手続等により債権の回収を図るための弁護士費用は、債務不履行に伴う損害の一部ということになります。
契約関係等にない者間の争いにも適用される不法行為に伴う損害賠償請求においては損害の中に弁護士費用を含めることができますが、債務不履行に伴う損害賠償では相手方に弁護士費用を請求できないとするのが一般的な裁判実務です。

ただし、建物等の管理等に関する区分所有者相互間の事項を定める管理規約において、弁護士費用を違約金と位買付けることによって、滞納している組合員に請求することは可能であると考えられます(標準管理規約も、「違約金としての弁護士費用」としているところです。)。
したがって、弁護士費用については、管理規約に標準管理規約と同じような規定を設けていることを前提に、「違約金としての弁護士費用」を滞納管理費等に加算して請求することになります。

請求の相手方

滞納管理費等の請求の相手方は、管理費等を滞納している組合員です。

組合員(区分所有者)ではない同居人や、組合員から専有部分を賃借している賃借人に請求することはできません。
区分所有権に相続が発生した場合には、一般承継人としてその相続人に請求することになります。
区分所有権が売却(強制執行や担保権実行による売却も含まれます。)された場合には、特定承継人である買主・買受人にも請求することができますが(区分所有法7条、8条)、この場合、売主である滞納組合員も引き続き債務を負い、管理組合は、両者に対し滞納額等の全額を請求できることになります。

滞納者への督促

(1) 管理組合からの督促

標準管理規約は、「管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする」としています(60条3項) 。
管理組合は、まずは滞納者に対して、滞納管理費等の支払いの督促とともに、今後も滞納が継続する場合には、その状況に応じて更なる措置を執ることになる旨を事前に警告します。
フローチャート(解説)によれば、督促の手順の例として、以下のような対応を挙げています(過去の実績によれば、失念していたなど一時的な要因で滞納した者は、3ヶ月以内に滞納を解消するとされています。)。

1ヶ月目  電話、書面(未納のお知らせ文)による連絡
2ヶ月目  電話、書面(請求書)による確認
3ヶ月目  電話、書面(催告書)
4ヶ月目  電話、書面、自宅訪問
5ヶ月目  電話、書面(内容証明郵便(配達記録付)で督促

(2) マンション管理業者による督促

なお、マンション管理業者に管理を委託している場合には、出納業務として、滞納者に対する督促を行ってもらうことも可能です。

ただし、マンション標準管理委託契約書では、管理業者が行う督促は、最初の支払期限から起算して0月の間、電話や自宅訪問、督促状による支払いの督促に限られ(同別表第1。「0月」は管理組合と管理業者との間の合意で決定する。)、この方法により督促しても組合員が滞納管理費等を支払わないときは、管理業者はそれ以上の業務・対応は行わず、その後の請求は管理組合が行うものとされていることに注意が必要です(同10条1項) 。

競売手続きへの参加による回収

管理費等の滞納者のほとんどは、ローン等の支払いも滞納していることが多いため、6か月以内に銀行が債権回収のために競売等に動き出すことが多いといわれています。
そこで、銀行等の他の債権者による担保権の実行等により競売が実施された場合は、裁判所に対して配当要求を行い、滞納管理費等を回収します。
なお、売却代金の配当でば滞納管理費等の全額を回収できない場合は、買受人(特定承継人)からの回収を検討します(買受人に請求し、買受人が弁済しない場合は、その資産について、先取特権の実行や債務名義に基づく強制執行を実施します(次号参照)。)。

消滅時効完成の阻止

(l) 消滅時効

管理費等の債権は、債務者が一定の期間その債務を履行しない場合、消滅時効により消滅します(ただし、期間の経過により当然に消滅するのではなく、債務者が消滅時効を援用すること~債務者が当該債権は時効により消滅したことを債権者に主張すること~が必要です。) 。
民法では、この消滅時効の期間につき、ア権利を行使できることを知ったときから5年イ権利を行使できるときから10年の2つの基準によることとしています(民法166条)。
組合員が管理組合に納人する管理費等は、管理規約等であらかじめ定められているものであり、管理組合はその納人額および納入時期等を了知していることから、上記アに該当すると解されますので、その消滅時効期間は「5年」となります。

(2) 消滅時効完成を防止するための措置 ~時効の更新、完成猶予~

①時効の更新等の概要

管理費等の滞納から5年が経過すると、滞納管理費等債権は時効により消滅します。管理費等は建物等の維持管理や管理組合運営における資金であり、滞納分を組合員から徴収できなくなることは、建物等の適正な維持管理や管理組合の運営に支障を生じますので、管理組合としては、滞納期間が長期にわたるような組合員に対しては、消滅時効の完成を防ぐために一定の措買を講じることが必要となります。
消滅時効の完成を防ぐ方法として、「時効の更新」と「時効の完成猶予」があります。

時効の更新は、以前は「時効の中断」と称されていたもので、時効の進行がストップし、改めて最初から時効期間がスタートするものです(いわば「時効期間のリセット」です。)。

一方、時効の完成猶予は、以前は「時効の停止」と称されていたもので、時効の進行は一旦ストップしますが、その事由がなくなればその時点から残りの時効期間が進行するものです(いわば「時効の進行の一時停止」です。)。
民法では、具体的な事由ごとに、下記の表のように定められています。

【表 事項の更新・完成猶予】
条文 具体的な自由 効果

 裁判上の請求

 (147条)

 裁判上の請求、支払督促、裁判上の和議・民事調停・家事調停、破産、再生・更生手続参加

当該事由が生じている間:時効の完成猶予

  ☟

判決等が確定 →  時効の更新

途中で終了 →  終了後6か月間時効の完成猶予

 強制執行等

 (148条)

強制執行、担保権の実行、形式競売、財産開示手続

当該事由が生じている間:時効の完成猶予

  ☟

当該事由が終了 →  時効の更新

取下げ・取消しによる終了 →  終了後6か月間時効の完成猶予

 仮差押え等

 (149条)

仮差押え、仮処分

当該事由が生じている間:時効の完成猶予

  ☟

当該事由が終了 →  終了後6か月間時効の完成猶予

 催告 (150条) 6カ月間事項の完成猶予 (1回だけ)
 協議を行う旨の合意 (151条) 原則1年間事項の完成猶予
 承認 (152条) 時効の更新

②時効の更新等の自由に係る留意(その1) ~権利について協議を行う旨の書面の合意~

民法では、「権利について協議を行う旨の合意が書面でなされたとき」が「時効の完成猶予」の事由として認められています。

したがって、滞納管理費等の請求に際し、滞納から5年近く経過しているような場合には、まずは「支払方法等について協議を行う」旨を書面で合意することにより当面の間の時効の完成を防いだ上で、ある程度時間をかけて、支払い方法等についての実際の協議を進めることが考えられます。

③時効の更新等の事由に係る留意(その2) ~配当要求について~

令和2年3月31日以前の民法では、「差押え、仮差押え又は仮処分」を時効の中断事由とし(改正前民法147条2号)、これらが権利者の請求によりまたは法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力は生じないとされていました(同154条) 。
上記のとおり、銀行等の他の債権者による競売が実施された場合は、管理組合は、裁判所に対して配当要求を行い、滞納管理費等の回収を図りますが、この配当手続への参加は、改正前の民法の規定における「差押え」に準ずるものとして「時効の中斬」が認められると解されていました。

しかも、最高裁は、配当要求により消滅時効を中断するためには、強制競売の申立てが取り下げられた場合であっても法定文書により滞納管理費等債権が先取特権を有することを配当要求手続において証明していればよく、債務者が配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことまでは要しないとしました(最高裁令和2年9月18日判決) 。すなわち管理組合にとって配当要求は、滞納管理費等の債権があり、それ
が区分所有法7条に基づく先取特権を有するものである旨の書面を提出すれば、滞納管理費等の回収を一部でも図るとともに、時効を完成させない(時効期間をリセットする。)という効果が得られる有効な手段ということになります。
ただし、現行の民法の規定では、従前の「差押え」が「強制執行」等とされ、その効果も、当該事由が終了するまでの間は時効の完成猶予、当該事由が終「したときに時効の更新とされたことから(民法148条)、配当要求の取扱いについては、今後議論となる可能性があることに注意が必要です。

滞納者の保有財産の調査

(1) 保有財産調査の意義

標準管理規約では、「理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議により、管理組合を代表して、訴訟その他法的措償を追行することができる」とされています(60条4項) 。
滞納管理費等の回収のための法的手続では、判決などの債務名義を取得の上、組合員の財産に強制執行をすることになるため、実際に滞納管理費等の回収が図られるかは、最終的には滞納者が保有している財産が、滞納管理費等やそれに優先する債務の弁済に十分な価値を有しているかにかかってきます。
したがって、滞納管理費等の回収につき法的手続を検討するに当たっては、その準備として、滞納者の保有財産の調在が大切となります。

(2) 財産調査の方法

①財産調査の対象

滞納者の専有部分等について、登記情報から抵当権等の設定の有無を調査するとともに、専有部分等以外の資産について、現住所と最低限その直前に居住していた市区町村内と、勤務先の市区町村内の調査を行います。

②滞納者の金融資産

滞納者の金融資産については、滞納者本人から情報提供があれば、銀行等から情報開示を得ることが考えられます。ただし、銀行等は顧客情報の流出を懸念して本人の同意を求める可能性が考えられるため、滞納者の同意を事前にとっておくようにします。
一方、滞納者本人から情報提供が得られない場合には、銀行等(現住所と最低限その直前に居住していた市区町村内の銀行等や勤務先の市区町村内の銀行等)に預金等の有無の情報開示を求めることが考えられますが、この場合も本人の同意が求められる可能性があることに注意が必要です。

③滞納者が保有する他の不動産

滞納者が保有する他の不動産については、滞納者本人から情報提供があったり、他の調査により地番や家屋番号等を取得できている場合には、各登記所で閲覧調査を行います。

登記情報は、どの登記所においても全国の登記情報を閲覧することができ、登記情報提供サービス(https: / / w w w 1.touki.or.jp/)を利用してインターネット上で確認することも可能です。
一方、滞納者本人から情報提供が得られない場合等には、市区町村(滞納者の現住所と最低限その直前に居住していた市区町村とすることが、費用対効果の観点から適切でしょう。)の固定資産課税台帳を調査することにより、滞納者の保有不動産を確認することができます。

ただし、地方自治体は地方税法上の守秘義務に抵触する懸念から、固定資産課税台帳の代理人による閲覧や記載事項の証明書の交付に当たっては、書面による本人の同意が求められることに、注意が必要です。

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