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マンションの日常の維持管理と保守点検

マンションの日常の維持管理と保守点検

1.マンションの維持管理と保守点検

マンションにおける日常の維持管理や保守点検に関して説明します。
マンションは適切に維持管理されて初めで快適な生活が送れるものです。マンションは建てられた時から、時間の経過とともに劣化および老朽化が進行していきます。しかし、建物が傷んでから直す、または造り替えるような対処療法的な修繕は、区分所有されているマンションにおいて、共有の財産である修繕積立金の活用の方法としてはロスが大きくなりすぎる傾向にあります。
そのためマンションでは長期修繕計画という維持管理のための基本方針を定めて、積立金を有効に活用できるように、計画的な修繕を行っていくことが推奨されています。この維持管理の基本方針である長期修繕計画は、5年程度ごとの見直しが国交省のマンション管理の指針において推奨されており、その見直しのために必要なのが定期点検であり、自主検査であり、建物調査診断ということになります。

この場合の保守点検・調査診断は、主に建物に使用されている仕上げの材料や、二次部材などの建材の劣化状況を点検により確認する、という作業になります。その結果を長期修繕計画に反映させて、計画修繕工事の時期を見極めていくことが管理組合に求められています。

2.マンションの維持管理

マンションの維持管理とーロに言っても、その範囲は極めて広く、管理会社に委託して定期に実施している日常的な床などの清掃、敷地内植栽の剪定や害虫駆除、排水管の高圧洗浄などの保守業務も維持管理の1つに他なりませんが、本論で言う維持管理は、前述のように建物そのものの劣化や、仕上げ、防水、二次部材などの劣化や不具合を、修繕積立金を使用して保全するという観点の維持管理を指すものと考えてください。
実際の維持管理の方法である大規模修繕工事における主要な工事の内容の詳細に関しては、5月号の第2回で書いておりますのでそちらをご確認ください。躯体改修、防水、外壁仕上げ(塗装またはタイル)といった基本的な工事類と、その他に鉄部塗装や金物類、外構部など、経年で劣化した部分を適切に維持管理していくことが建物を長く持たせるポイントになります。
また、4月号の第1回で書いたような耐震改修工事も、旧耐震の建物においては重要な維持管理行為に他なりませんし、6月号の第3回を読んでいただければ、設備配管や設備機器類、電気設備、昇降機、給排気設備などライフラインの必要に応じた更新や修繕工事も、極めて重要な維持管理行為であることがお分かりいただけるでしょう。

3.マンションの保守点検

保守点検には、法律で定められた法定点検と、自主的に行う範囲の点検、建築士などマンション維持管理の専門家が行う調査診断の3つに分かれます。

法定点検

法定点検は、主に7つの種類があります。

  • 特定建築物定期調査(建築基準法12 条1 項)
  • 建築設備定期点検(建築基準法12条3項)
  • 昇降機定期点検(防火設備定期検査を含む)(建築基準法12条3項)
  • 消防用設備等点検(消防法17条の3の3)
  • 簡易専用水道管理状況検査(水道法3条7項、34条の2)
  • 専用水道定期水質検査(水道法3条6項、34条)
  • 自家用電気工作物定期点検(電気事業法39条、42条)

特定建築物定期調査

特定建築物定期調査の中では、平成20年の法改正により外壁がタイルや石貼り(乾式工法を除く)等の仕上げのマンションにおいて、全面打診調査が義務付けられています。ただし、何がなんでも全ての外壁を無闇に打診検査しろ、と言うものではなく、まずは、「手の届く範囲で打診検査を行い異常が認められた場合」および「竣工、外壁改修等の後10年を超えて最初の調査である場合」に「外壁の落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分」を全面打診しなくてはならない、とされています。例外として「当該調査の実施後3年以内に外壁改修もしくは全面打診が実施されることが確実な場合」、または、「別途歩行者等の安全を確保するための対策を講じている場合」は、点検時の全面打診を行わなくても良いとされています。

また、その方法に関しては3階建程度の低層であれば脚立や梯子を使っても行えると思いますが、それ以上になると高所作業車などが必要になる場合もあります。しかしこれも設置できる場所があればの話です。
最も確実な調査方法は足場を組むことですが、定期調杏のためだけに足場を組むのは費用対効果の面から考えて現実的ではありません。さらに高層のマンションでは、ブランコやゴンドラなどを吊り下げないと調査ができないこともあり得ます。
近年では赤外線カメラを用いた外壁の赤外線診断という手法もあります。タイルなどの仕上げ材が太陽熱によって温められると、浮きのある部分では裏側の空気層のため、表面温度が高くなります。
赤外線写真においては、その部分が熱く熱を持った色に撮影されるため浮きがあると判別できるのですが、天候や建物の形状、太陽熱を受けにくい北面などでは測定が困難な場合もあります。筆者としては、経験上まだこの測定方法には正確性に欠ける部分があると惑じており、あくまでも参考程度に考えた方がいいように思います。ただし、超高層マンションのような建物においては、ドローンに赤外線カメラを搭載しての調査は、ゴンドラを吊るよりは
有効な可能性もあると考えており、その精度や調査診断方法などに期待を持っています。

法定点検の調査の後

法定点検の調査結果の中には、現在の基準を満たしていないという指摘が挙げられている場合もありますが、絶対に修繕しなくてはならないものではありませんし、場合によっては甚準を満たすことが不可能なものもあり得ます。修繕が不可能なものの事例としては、二方向避難(垂直避難ハッチの設置なし)や昇降機と避難階段の配置などで見られる指摘事項ですが、これらは既存不適格と言い、建てられた当時の基準や法令は満たしているものの、後に甚準や法令が変わってしまったために現在の碁準や法令を満たしていない状態になったもののことです。できる範囲で基準を満たすように努力義務が課されていますが、改変のできないものは注意しながら使い続けるしか方法はありません。
また、ポンプなどの設備機器の更新を勧められている場合もありますが、その要否や時期、費用などに関してはメリット・デメリットを正しく把握して実施の検討をしましょう。指摘されるがままに全てを修繕や更新していては、いくら修繕積立金があっても足りなくなってしまう可能性があります。

管理組合で判断できなければ、組合の側に立ってこれらを涸切に比較検討し、メリット・デメリットを挙げて示唆してくれる、改修設計コンサルタントなどを活用しましょう。そのために費用がかかったとしても、長い目でトータル的に考えれば費用の削減につながると思います。

自主的な点検

マンションの居住者は、日常的に自分が使用するところしか知らない、という傾向が強いようです。
1階の玄関周りや居住している階の廊下や階段、自宅のバルコニー、駐車場や駐輪場の一部といったところでしょうか。それでも建物そのものの劣化や修繕が必要と思われる部分などは、意識して見ない限りなかなか見えてきません。
そこでお勧めしたいのが、理事になったらまず実施することとして、マンション全体の共用部分で保守点検を理事全員で自主的に行ってみる、ということです。意識して建物を見て回ることで、気付かなかったこと、見過ごしていたものが見えてくることもありますし、屋上や居住階以外の階、機械室の中やポンプなどの設備機器など、普段見ることのない場所や物も見て知ることができます。

塗装が剥がれている、タイルが浮いている、天井に水が漏れたような跡があるなど、点検の項目は多岐にわたります。また、調査のための道具も必要になりますので、管理組合として準備しておくと良いでしょう。
マンションを見て回る前に、まずは図面を見てみましょう。建物の全体像がよく分かると思います。

また、どこがどのような仕上げなのかも確認しましょう。例えば、屋上防水が「保護アスファルト防水」なのか「露出アスファルト防水」なのかによっても見るべきことが変わってきます。本稿では、基本的な工事に関わる見るべきポイントをいくつか挙げておきますので参考にしてください。屋上などに登る際は、くれぐれも転落などないよう、安全に注意して点検してみましょう。

屋上防水

最上階の居室内に漏水の報告はないか、防水層に膨れはないか(空気が入っている場合や、水が回っている場合などがあり得ます。)、破断はないか、保護塗装がかすれてきていないか、立ち上がり端部金物のコーチングにひび割れなどはないかなどを、チェックします(写真2、写真3)。

躯体や外壁、天井面

水の漏ったような跡はないか、躯体が欠損し錆びた鉄筋が露出している場所はないか、白い汁のようなものが流れ出た跡はないか(白華現象、エフロレッセンスとも言います。)、ひび割れはないか、ある場' 合は何ミリ程度かなどをチェックします(写真4、写真5)。

外壁仕上げ

タイルであれば、打診棒で叩いてみて浮きがないか(音が明らかに違うので判別できると思います。)、剥藩している箇所はないかを、確認します(写真6)。
塗装であれば、触ってみてチョーキング(手に粉化した塗膜が付く状態)していないか、剥がれている箇所はないか、膨れはないかなどをチェックします(写真7)。

シーリング

シーリング材の表面にひび割れがないか、躯体との界面に口空きはないか、軟化していないか、固化していないか、ベタベタしないかなどをチェックします(写真8)。

開放廊下

床面の長尺塩ビシートの端部が剥がれていないか、水の溜まる場所はないか、側溝の塗膜防水の状態はどうか、塗膜の刺がれなどはないか、カスレなどはないかなどをチェックします。
これらを実施しておくことで、次の専門家によるてみましょう。何年かに1度は、全住戸へのアンケート調査なども実施し、バルコニーなどその部屋の人しか見ることができない部分の状態なども把握しておくと、より良いと思います。

■専門家による建物調査診断

管理組合が行う自主点検をより専門的に行うのが、大規模修繕などの直前に行う専門家による建物調査診断です。目視だけでなく、各種材料の物理的調査、付着力強度試験、引っ張り試験、物性調査など、専門的な調査を含みます。その結果を見て、改修のためにどのような材料で改修すれば良いかなどの仕様を定めたり、より良い改修提案を行うための調査となります。
保守点検はただ実施するだけでなく、それを維持管理のために有効に役立てることが菫要です。

適切な保守点検と維持管理により、マンションを長く快適に使えるようにしていきましょう。