2026年(令和8年)6月、マンションの大規模修繕工事をめぐり、施工会社と設計コンサルタント会社の計38社が談合を繰り返していたとして、公正取引委員会が独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定し、排除措置命令を出す方針を固めたと報じられました。施工会社には総額約16億円の課徴金納付命令も出される見通しです。各社は遅くとも2021年秋ごろから、関東地方のマンションを対象に、見積もり合わせや入札の前にあらかじめ話し合って受注する会社と金額を決めていたとされ、対象は100件以上にのぼると報じられています。
本稿では、この事案を題材に、独占禁止法の「排除措置命令」とは何か、管理組合にどのような影響があるのか、そして管理組合が今できる自衛策を整理します。(本稿は2026年8月時点の報道等に基づくもので、正式な命令はまだ発表されていません。発表され次第、内容を更新します。)
排除措置命令とは何か
独占禁止法違反の指摘には、重い順に「排除措置命令」「警告」「注意」といった段階があります。このうち排除措置命令(独占禁止法7条)は正式な行政処分であり、違反行為の取りやめ、再発防止体制の構築、取締役会での決議、取引先や同業他社への通知、公正取引委員会への報告などが命じられます。命令書は公表され、どの期間に、どのような手口で違反が行われたかが公式に認定されます。
談合やカルテルの場合は、これに加えて課徴金納付命令が出され、違反対象となった売上高の原則10%を国庫に納付しなければなりません。今回の事案では、施工を担わない設計コンサルタント会社には課徴金は科されない見通しですが、談合の成立に中心的な役割を果たしたとして排除措置命令の対象になると報じられています。
今回の事案の特徴 ― 「設計監理方式の死角」
今回の報道で特に重いのは、本来は管理組合の側に立って工事の適正化を担うはずの設計コンサルタントが、受注調整に関与していたとされる点です。
大規模修繕工事では、設計事務所などのコンサルタントが仕様書を作り、施工会社を公募し、見積もりを比較して選定を助言する「設計監理方式」が広く採用されています。この方式は本来、管理組合が専門知識の不足を補い、施工会社との利益相反を避けるための仕組みです。ところが、そのコンサルタント自身が特定の施工会社に受注させるよう調整していたとすれば、比較検討のプロセス全体が形だけのものになってしまいます。国土交通省も以前から「設計コンサルタントを利用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口」を設けるなど、不適切コンサル問題への注意喚起を続けてきました。今回の事案は、その懸念が大規模に現実化したものといえます。
管理組合への影響
正式に排除措置命令が出て確定した場合、管理組合にとって重要な意味を持つのは次の点です。
第一に、損害賠償請求の足がかりになることです。独占禁止法25条は、排除措置命令等が確定した後の無過失損害賠償責任を定めており、民法709条に基づく請求も可能です。談合によって工事費が割高になっていた場合、その差額分の賠償を管理組合が請求する法的な根拠が整うことになります。命令書には対象物件の範囲・期間・手口が具体的に記載されるため、該当する可能性のある管理組合は、まず自分たちの工事が対象期間・対象地域に含まれるかを確認することが出発点になります。
第二に、進行中の契約の見直しです。処分対象となった会社と設計監理契約や工事請負契約を結んでいる管理組合は、契約を継続するかどうかの判断を迫られます。直ちに解除すべきとは限りませんが、少なくとも経緯の説明を求め、総会・理事会で対応を協議しておくべき局面です。
第三に、業者選定基準への反映です。官公庁の多くは排除措置命令を受けた企業を一定期間指名停止としますが、民間の管理組合には自動的に適用される仕組みはありません。管理組合自身が選定条件に組み込む必要があります。
管理組合が今できる自衛策
今回の報道を踏まえ、これから大規模修繕を迎える管理組合には次の対策をおすすめします。
1.コンサルタントの独立性を確認する。設計コンサルタントを選ぶ際に、管理会社や施工会社と資本関係・取引関係がないか、特定の施工会社への誘導につながる利害がないかを、書面で確認しましょう。極端に安いコンサルタント料は、施工会社側からの見返り(バックマージン)で埋め合わせている可能性を疑うべきサインの一つです。
2.公募条件に独占禁止法関連の資格要件を入れる。施工会社の公募要領に「過去一定期間内に独占禁止法に基づく排除措置命令等の処分を受けていないこと」を参加資格として明記する方法です。誓約書の提出を求める形も有効です。
3.談合情報への対応手順を決めておく。見積もり合わせの過程で談合をうかがわせる情報(各社の見積金額が不自然に近い、辞退が相次ぐ、同一の書式・誤字など)に接した場合の対応手順を、あらかじめ仕様書や選定要領に定めておきます。
4.見積もりの比較検討過程を記録に残す。誰がどの会社に声をかけ、どのような基準で選定したかを議事録等に残しておくことは、後日問題が発覚した際に管理組合を守る材料になります。
おわりに
今回の事案は、設計監理方式そのものが悪いという話ではなく、「誰に監理を頼むか」がいかに重要かを示すものです。マンションみらい設計は、管理会社・施工会社のいずれとも資本関係のない独立の立場から、大規模修繕のコンサルタント選定・施工会社公募・見積もり比較のご相談をお受けしています。ご自身のマンションの工事が今回の報道の対象に含まれるか気になる場合や、これからの大規模修繕で談合リスクを避けたい管理組合の方は、お問合せフォームからお気軽にご相談ください。
公正取引委員会から正式な命令が発表された際は、命令書の内容(対象物件の範囲・期間・手口)を踏まえて本稿を更新する予定です。
※本稿は2026年8月7日時点の報道等に基づく一般的な解説であり、特定の企業・団体の違反を断定するものではありません。正式な処分内容は公正取引委員会の発表をご確認ください。