第4節 義務違反者に対する措置
① 区分所有者の権利義務等(6条)
1. 区分所有者等の義務
区分所有者は、「建物の保存に有害な行為」※l、建物の管理または使用に関して区分所有者の「共同の利益に反する行為」をしてはならない(6条1項)。
これは、占有者にも準用される(3項) 。
2. 区分所有者と相隣関係(区分所有者の権利)
区分所有者は、「その専有部分または共用部分を保存し、または改良する」ため「必要な範囲内」で、他の区分所有者の専有部分または「自己の所有に属さない共用部分」※3の使用を請求できる。
この場合に、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない(6条2項) 。
② 務違反者に対する措置の内容
1. 区分所有者に対して
(1)行為の停止等の請求
共同の利益に反する行為をした者またはその行為をする恐れがある者に対して、他の区分所有者全員または管理組合法人は、違反行為の停止、行為結果の除去、行為予防の必要な措置を求めることができる(57条1項) 。
コメント ① 各区分所有者が個別に権利を行使できない。これは、裁判上の請求についてのことであリ 、事実上の請求は、個別に権利の行使ができる。 ② たとえば、毎晩のカラオケ騒音を止めさせる。 ③ たとえば、廊下に常時私物を置いて廊下を不当使用している者に除去させる。 ④ たとえば、専有部分を改装しようとする者に耐力壁の撒去・加工を禁止する。 |
(2)使用禁止請求
他の区分所有者全員または管理組合法人は、違反者が所有する専有部分の使用を禁止できる(58条1項)。
この請求要件は、次の2つを満たした場合である。
① 義務過反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合 ② 行為の停止等の請求では、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合 |
つまり、①の要件を満たし、行為の停止等の請求でその陪害を除去し共同生活を回復・維持できれば、使用禁止請求は認められない、という要件であるが、必ずしも行為の停止等による請求を経なくても、①かつ② を満たせば使用禁止請求は認められる。
たとえば、暴力団抗争をしている暴力団が事務所として使用しているケースなどが該当する。
コメント ⑤ 専有部分が使えないということは、共用部分・敷地•附属施設も使えないということを意味する。 もちろん、区分所有者の家族も使えない。 |
(3)競売請求
他の区分所有者全員または管理組合法人は、違反者の区分所有権および敷地利用権を強制的に競売にかける ことができる (59条1項)。
この請求要件は、次の2つを満たした場合である。
① 義務違反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合 ② 行為の停止等・使用禁止請求• 7条に基づく先取特権の実行としての専有部分の競売等では、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合。 |
コメント ⑥ たとえば、行為の停止等の請求で充分であるにもかかわらず、いきなリ競売請求はできない。 つまリ、条文上、前記(1)(2)によっても共同生活の維持を図れない場合であり、たとえば、使用禁止請求の一時的排除で足リる場合、競売請求はできない。 |
2. 占有者に対して
主に賃借人、使用借人、同居人、不法占拠者、マンションの一住戸内の一部屋だけの賃借者、付属建物たる車庫の賃借人などであり、建物の共用部分や敷地のみの占有者は、ここでいう「占有者」ではない。
(1)行為の停止等の請求
区分所有者の全員または管理組合法人は、違反行為の停止等を求めることができる(57条4項)。
(2)契約解除・引渡し請求
区分所有者の全員または管理組合法人は、賃貸借契約等の契約を解除し、専有部分の引渡しを請求(占有者の立退きを請求)できる(60条1項)。
この請求要件は、次の2つを満たした場合である。
① 義務違反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しい場合 ② 行為の停止等の請求では、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合 |
たとえば、住居専用部分と店舗専用部分からなる両者の区画が明確な複合用途型マンションで、賃借人が住居専用部分を会社の事務所として使用している場合、この要件に該当する。
3.各請求の関係
(1)当初から行為の停止等の請求では共同生活の維持を図れないのなら、行為の停止等の請求の訴訟を経ずに、使用禁止請求や競売請求の訴訟提起が認められる。
(2) 競売請求は、必ずしも使用禁止の請求を経なくても認められる。
(3)契約解除および引渡し請求は、必ずしも行為の停止等の請求を経なくても認められる。
③ 措置の方法
次のケースを見てみよう
Aは、マンションの区分所有者Bからその専有部分を賃借しているが、他の区分所有者からの停止の請求を無視して、数年にわたりバルコニーで野鳩の餌付けおよび飼育をし、著しい悪臭、騒音等を生じさせたため、B以外の区分所有者全員は、AB間の賃貸借契約の解除およびAの賃借部分の引渡しの請求を行うこととなった。 この場合、どれだけの多数で決議しなければならないのだろうか。 また、この請求は、裁判上で行う必要があるのだろうか。 |
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区分所有者および占有者への行為の停止等の請求 |
区分所有者への使用禁止請求・競売請求 占有者への契約解除・引渡し請求 |
裁判外でも裁判上でもOK |
必ず訴えをもって行う |
裁判外 → 各区分所有者が単独でできる。 裁判上 → 区分所有者および誂決権の各過半数※3の決議でできる。 |
訴えを提起するにあたって、区分所有者および議決権の各3/4以上の多数による集会の決識を要する。 |
原告として訴えを提起する権利は、管理組合が法人化されていない場合は他の区分所者全員に、法人化されている場合は法人(理事が代表)にある。 この権利を行使する要件が「集会の決議」である。 |
④ 弁明の機会
次の①②の場合には、集会の決議前に、あらかじめ、区分所有者に対し、③の場合には、占有者に対し、弁明(言い訳を述べること)の機会を与える必要がある。
なぜなら、これらの請求は、区分所有権•利用権などを実質的に奪うことになるからである。
① 使用禁止請求(58条3項) ② 競売請求(59条2項) ③ 占有者への契約解除・引渡し請求(60条2項) |
コメント ⑦ 行為の停止等の請求においては、弁明の機会は不要である。 また、「占有者ヘの契約解除・引渡し請求」 においては、 占有者に弁明の機会を与えればよく区分所有者には与えなくてもよい。 |