住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律について
はじめに
我が国の住宅ストックは、量的には充足している一方で、質的な面からみると、耐震性、省エネ性能等が十分でないものが未だ多く存在しています(図1)。
住宅の質を向上させるとともに、適切な維持管理により長寿命化を図り、将来世代が承継できるストックを増やしていくことは、既存住宅流通市場を活性化し、個人の住居取得に係る負担の軽減に資するのみならず、環境負荷の低減や良好な地域環境の確保の観点からも重要です。
また、消費者がニーズやライフステージに応じた適切な住宅を取得することを可能とするためには、築古のストックの建替えによる更新のほか、リフォームによる住宅の性能向上、適切な維持管理による住宅の性能の保全等により、良質な住宅ストックが市場で評価され、流通するとともに資産として次の世代に承継されていく住宅循環システムの構築が必要です。
一方、その中で大きな役割を果たす長期優良住宅について、その認定状況を見ると、新築住宅に占める認定長期優良住宅の割合が、戸建住宅は約25%が認定を受けている一方で、マンション等の共同住宅は約0.2%と、特に認定が進んでいない状況です(図2)。
また、実際に住宅を取得した世帯には、隠れた不具合や設備の老朽化に対する懸念など、住宅の品質や瑕疵の存在を懸念して既存住宅を選択しなかった世帯が多いほか、既存住宅取引に関する相談件数が年々増加傾向にあるなど、既存住宅の取引に当たっての不安を感じる住宅取得者が依然として多いことから、既存住宅の流通を活性化させるためには買主が安心して取引できる環境の整備に取り組むことも重要です(図3)。
こうした問題意識のもと、長期優良住宅制度および住宅瑕疵担保履行制度等について、見直しの検討を行うことを目的として、社会資本整備審議会住宅宅地分科会および建築分科会のもとに、「既存住宅流通市場活性化のための優良な住宅ストックの形成及び消費者保護の充実に関する小委員会(委員長:深尾精一首都大学東京名誉教授) 」を設置してご議論いただき、2021年1月28Bに「小委員会とりまとめ」をいただきました。
このとりまとめを踏まえて、2021年2月5日に「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、その後、国会審議を経て同年5月21日に成立、5月28日に公布されました。
本稿では、本法改正の主な内容について簡単に紹介します。
住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律について
(1) 長期優良住宅の普及促進等(長期優良住宅法、住宅品質確保法の改正)
①長期優良住宅の普及の促進に関する法律の改正概要
〇分譲マンションにおける住棟認定の導入
現行制度においては、分譲マンションの長期優良住宅の認定は、まず建築前に分譲事業者が認定を受け、その後維持保全を行う各住戸の区分所有者(譲受人)が決定する度に、分譲事業者は各区分所有者と共同して変更認定を受けなければならないこととされています。
この点について、分譲事業者等から、変更認定の手続が非常に煩雑であること、認定を受けた計画上の維持保全の実施者が各区分所有者である一方、通常、分譲マンションの維持保全は管理組合が主体となって行っており、制度と実態が乖離した不合理な状況が生じていることを課題として指摘されていました。
このため、本改正法では、
i) 分譲マンションを建築して長期優良住宅の認定を受けようとする分譲事業者は、単独で長期優良住宅建築等計画を作成し、所管行政庁の認定を中請することができるものとする(第5条第4項) 。
とともに、
ii) i) の認定申請に基づき認定を受けた分譲事業者は、当該分譲マンションの管理組合の管理者等と共同して、認定長期優良住宅建築等計画の変更の認定を申請しなければならないこと(第9条第3項)とし、これによって、維持保
全の実施主体を各住戸の区分所有者から管理組合の管理者等とすることとしました。
〇建築行為を伴わない既存住宅の認定制度の創設
現行の長期優良住宅の認定制度は、建築行為(新築、増築または改築)を行う場合に、建築計画および維持保全計画を認定する仕組みであることから、既存住宅については、認定長期優良住宅と同等の性能を有しているものであっても、増改築行為を行わない限り、認定を取得することができません。
一方、長期優良住宅認定制度開始(平成21年6月)以前に建築された住宅の中には、増改築を行わずとも良質な住宅も存在しており、こうした一定の性能を有する住宅について、長期優良住宅の対象とすることにより、適切な維持保全が確保され、優良なストックの将来にわたっての保全が図られるとともに、こうした住宅が市場において簡便かつ適切に評価されることが可能となります。
このため、本改正法では、住宅のうち一定の性能を有するものについて、当該住宅の所有者等(分譲マンションの場合は、当該分譲マンションの管理組合の管理者等)は、当該住宅の維持保全に関する計画を作成し、所管行政庁の認定を申請することができることとしました(第5条第6項、第7項) 。
〇頻発する災害への対応
豪雨災害など、近年、災害が激甚化・頻発化していることを踏まえ、今般の改正により、認定基準に、災害リスクヘの配慮韮準(自然災害による被害の発生の防止または軽滅に配慮されたものであること。)を追加することとしました(第6条第1項第4号)。
なお、具体的な運用については、基本方針において改めてお示しする予定ですが、例えば、土砂災害特別警戒区域等の災害の危険性が特に高い区域については、原則認定を行わないこと等を想定しています。
②住宅の品質確保の促進等に関する法律の改正概要
〇住宅性能評価と長期優良住宅認定の一体審査の導入
現行の長期優良住宅の認定手続においては、一般的に住宅の品質の確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号。以下「住宅品質確保法」という。)に碁づく登録住宅性能評価機関による長期使用構造等に係る技術的な審査を受けた上で、所管行政庁に認定申請が行われています。もっとも、この技術的審査は法律上の位置付けのない任意の審査であったことから、申請後に所管行政庁が認定要件を満たしているかについて改めて確認を行う必要があります。
また、長期優良住宅の認定申請を行う者のうちの約7割が住宅性能評価の中請を併せて行っていますが、長期優良住宅の認定甚準のうち住宅のハードに関する甚準(長期使用構造等)は、そのほとんどが住宅性能評価の評価対象となっていることから、実態として、長期優良住宅の認定審査と住宅性能評価において申請図書や審査の璽複が生じています。
こうしたことを踏まえ、本改正法では、当該技術的審査を法律上位置付け、登録住宅性能評価機関が、長期使用構造等であることの確認を行えることとしました。
具体的には、
i) 長期優良住宅建築等計画の認定申請者は、あらかじめ、登録住宅性能評価機関に対し、申請に係る住宅の構造および設備が長期使用構造等であることの確認を求めることができる。
ii) 住宅性能評価の申請者は、i) の求めを当該住宅性能評価の申請と併せて行えることとし、登録住宅性能評価機関は、当該確認の結果を住宅性能評価書に記載できる。
iii) i) またはii) により、認定申請に係る住宅の構造および設備が長期使用構造等である旨が記載された確認書または住宅性能評価書を添えて認定申請があった場合は、所管行政庁は当該申請に係る住宅が長期使用構造等に係る
基準に溜合しているものとみなす。
こととしました(第6条の2)。
(2) 既存住宅に係る紛争処理機能の強化等(住宅品質確保法、住宅瑕疵担保履行法の改正)
①既存住宅流通・リフォームに係る住宅紛争処理制度の充実
住宅品質確保法及び特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(平成19年法律第66号。
以下「住宅瑕疵担保履行法」という。)では、住宅の売買や建設工事のトラブルに関して、あっせんや調停など弁護士や建築士の関与のもとで行う裁判外の紛争処理(ADR) 制度(住宅紛争処理制度)を設けており、現在、全国52の弁護士会が国上交通大臣指定の紛争処理機関として実施しています。
現行制度では、建設住宅性能評価を受けた住宅または瑕疵保険に加入した新築住宅の建設工事の請負契約または売買契約に関する紛争が住宅紛争処理の対象であり、原則として、新築住宅が対象となっています。
一方で、近年、既存住宅の売買やリフォーム等、住宅のトラブルに関する相談が増加傾向にあることなどを踏まえ、本改正法において、瑕疵保険に加人した既存住宅を住宅紛争処理制度の対象に追加することとしました(住宅瑕疵担保履行法第33条第1項) 。
既存住宅に関する瑕疵保険には、リフォームや既存住宅売買のほか、マンション等の大規模修繕に関するものもありますが、今回の改正も踏まえつつ、これらの瑕疵保険のさらなる普及拡大を図っていくこととしています。
②住宅紛争処理への時効の完成猶予効の付与等
住宅品質確保法では、新築住宅について、引渡しから10年間の瑕疵担保責任が規定されていますが、消滅時効に関しては民法の一般原則に従う必要があります。
このため、時効の完成が近い場合には、住宅紛争処理手続中に消滅時効を迎えてしまい、仮に住宅紛争処理により解決しなかった場合には裁判を提起できなくなることを懸念して、住宅紛争処理制度の活用自体を躊躇するケースがあることなどが指摘されています。
これを踏まえ、本改正法では、時効の完成が近い場合にも、安心して住宅紛争処理を活用することができるよう、住宅紛争処理に時効の完成猶予効を付与することとしました(住宅品質確保法第73条の2)。
③住宅紛争処理支援センターの業務拡充
住宅紛争処理支援センター(以下「センター」という。)は、住宅に係る紛争の迅速かつ適正な解決を図るとともに、住宅購入者等の利益の保護を図ることを目的として、紛争処理機関の支援(紛争処理事務に必要な費用助成、紛争処理委員の研修、法律的・技術的な資料収集・調査研究等)や、専門家による住宅に関するトラブルの相談への対応等を行う機関です。
センターは、住宅品質確保法の規定により国土交通大臣の指定を受けた法人であり、「公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター」が指定されています。
住宅のトラブルに関する相談の増加傾向等に鑑みれば、既存住宅の円滑な取引環境の整備のためには、紛争に至った場合の対処にとどまらず、そもそも瑕疵の発生自体を防止することが重要です。
このため、本改正法では、センターの業務として、住宅の瑕疵の発生の防止に関する調査および研究を行うことを追加するとともに、住宅瑕疵担保責任保険法人とセンターの連携体制を整備するため、住宅瑕疵担保責任保険法人は、これらの業務等に関してセンターから必要な協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めるものとしました(住宅品質確保法第83条第1項第8号、住宅瑕疵担保履行法第35条) 。
おわりに
本改正法は、令和3年9月30日に施行する項目、公布から9か月以内に施行する項目、公布から1年6か月以内に施行する項目が中心になっており、住宅紛争処理への時効の完成猶予効の付与等は令和3年9月30日に、分譲マンションにおける住棟単位認定の導入や住宅性能評価と長期優良住宅認定との一体審査、災害配慮基準の追加は公布から9か月以内に、建築行為を伴わない既存住宅の認定制度の創設や住宅紛争処理の対象拡充は公布から1年6か月以内の施行となります。