国土交通省は令和8年(2026年)9月28日付で、マンション管理センター、マンション管理業協会、日本マンション管理士会連合会、全国マンション管理組合連合会の4団体に対し、「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知等について」(国住参マ第168号・国不建第83号)を通知しました。同日に公正取引委員会が、関東地方のマンション大規模修繕工事をめぐる設計コンサルタントと施工業者の談合に排除措置命令を出したことを受けたものです。本記事では通知と別添資料の内容を整理し、管理組合が今後の大規模修繕工事の発注でどう活かすべきかを解説します。
・国交省が管理組合向けに「相談窓口」「専門家の活用」「発注時の留意点」をとりまとめ、各団体を通じて周知を要請
・設計・監理方式を採用する場合は、設計コンサルタントの中立性を確保したうえで適正な手続で施工会社を選ぶことが重要と明記
・談合が判明した場合に受注者が違約金を支払う「談合違約金特約条項」を請負契約に設定できることを改めて周知(令和7年6月26日付事務連絡を別紙として添付)
・住まいるダイヤルの無料「見積チェックサービス」、国交省「マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂)」などの参考情報を案内
通知の背景 ― 公正取引委員会の排除措置命令
通知の冒頭では、関東地方のマンション大規模修繕工事の発注をめぐり、設計コンサルタント業務の受託者と工事の受注者が独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に違反する行為を行ったとして、公正取引委員会から排除措置命令を受ける事案が発生したと述べています。国交省はこうした事案を「管理組合等の信頼を損ない、その利益を害するとともに、マンションの適切な維持管理に必要な大規模修繕工事の適正な発注等を阻害するもの」と位置づけ、管理組合による発注の適正化を推進する観点から、相談窓口や参考情報を別添のとおりとりまとめ、各団体に会員や管理組合への周知を求めました。
公正取引委員会の命令の内容(対象事業者・課徴金額など)については、当サイトの関連記事で詳しく解説しています。
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「公正取引委員会、マンション大規模修繕工事の談合で排除措置命令 ― 設計コンサル2社と施工業者に課徴金16億円超」
2026/9/30
2026年9月28日、公正取引委員会は関東地区のマンション大規模修繕工事をめぐる談合で、設計コンサル2社と施工業者に排除措置命令と総額16億円超の課徴金納付命令を出しました。手口と「手数料」の考え方、管理組合のチェックポイントを独立系の立場から解説します。
1.大規模修繕工事の発注に関する相談窓口
別添「管理組合・区分所有者の皆様へ」では、大規模修繕工事の発注に関する疑問や相談について、マンション管理士や建築士等がアドバイスを行う次の相談窓口を案内しています。
| 相談窓口 | 電話番号 | 備考 |
|---|---|---|
| (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター 「住まいるダイヤル」 |
03(3556)5147 | 見積費用については無料の「見積チェックサービス」も実施 |
| (公財)マンション管理センター 建物・設備の維持管理のご相談 |
03(3222)1519 | 管理組合向けの総合相談窓口 |
特に「見積チェックサービス」は、施工会社から提出された見積書の内容について第三者の建築士が無料で確認してくれる制度です。施工会社を決める前に、相見積の内容に不自然な点がないかを確認する手段として活用できます。
2.外部専門家の活用
通知は、大規模修繕工事の発注にあたってマンション管理士や建築士等の外部専門家に協力を求めることが有効であるとし、地方公共団体によっては専門家の派遣制度や専門家による相談窓口を設けている場合があるため、まずはお住まいの地方公共団体に確認するよう勧めています。また、日本マンション管理士会連合会等が行っている専門家情報の公開等を活用して情報収集することも挙げられています。
3.発注時の留意点 ― 設計・監理方式と設計コンサルタントの中立性
近年の大規模修繕工事では、管理組合が設計コンサルタントに調査・設計、技術資料作成、工事業者の選定支援等を委託する「設計・監理方式」が広く採用されています。通知はこの方式を否定するものではなく、採用する場合には次の点に留意するよう求めています。
設計コンサルタント及び工事業者が、工事の受注予定者又は受注金額等について事前に調整するなどの不適正な行為を行うことがないよう留意し、設計コンサルタントの中立性を確保した上で、適正な手続の下、工事の受注者を選定することが重要(別添3.より)
つまり、設計コンサルタントが施工会社の選定に過度に関与し、特定の施工会社に受注が誘導される構造こそが今回の事案の核心であり、管理組合は「誰が施工会社を選ぶのか」「選定過程が組合の目の届くところで行われているか」を点検する必要があります。
4.談合違約金特約条項の活用
談合を未然に防止する取組の一つとして、国交省は「マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について」(令和7年6月26日付事務連絡)を別紙として添付し、談合が認められた場合に受注者が違約金を支払う義務を請負契約上明確にする特約条項の設定が可能であることを改めて周知しています。事務連絡に示された条項例の骨子は次のとおりです。
| 項目 | 条項例の内容 |
|---|---|
| 違約金の額 | 請負代金額(変更があった場合は変更後の額)の○%に相当する額を、発注者(管理組合)の請求に基づき指定期間内に支払う |
| 支払義務が生じる場合 | ①独占禁止法第3条違反等により公正取引委員会の課徴金納付命令が確定したとき ②納付命令又は排除措置命令において当該契約に関する違反行為があったとされたとき ③刑法第96条の6(談合罪等)又は独占禁止法の罰則の刑が確定したとき |
| 通知義務 | 受注者は上記に該当する事実が発生した場合、遅滞なく発注者に通知する |
| 遅延利息 | 指定期間内に支払わない場合、年3パーセントの割合で計算した遅延利息を支払う |
| 免責の否定 | 受注者は契約を履行したことを理由に違約金を免れることができない |
| 超過損害 | 実際の損害額が違約金を超える場合、発注者は超過分の賠償を請求できる |
参考として示された国土交通省直轄工事の契約書(工事請負契約書第54条の2)では、違約金は請負代金額の10分の1とされ、受注者が違反行為の首謀者であった場合などにはさらに100分の5が加算されます。管理組合の請負契約でも、この水準を参考に違約金率を定めることが考えられます。
ただし事務連絡は、特約条項を設定しても受注者との間で賠償義務の有無をめぐる訴訟となるリスクや、賠償金が支払われないリスクが残るとして、設定にあたっては弁護士等の専門家に相談し、個別の事案に応じて対応することを推奨しています。
5.発注の参考となる情報
通知の末尾では、大規模修繕工事の発注の参考となる資料として次のものが案内されています。
| 資料 | 発行 | 概要 |
|---|---|---|
| マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂) | 国土交通省 | 基本的な改修工事の進め方(P.15)、専門家等の選定(P.16~)、見積依頼・施工会社の募集と候補者選定(P.24~)等を解説。工事の内容・工法をイラストや写真付きで紹介 |
| 大規模修繕工事の手引き | 住宅金融支援機構 | 管理組合が施工会社や管理会社と大規模修繕工事の検討を進める上での基礎資料(工事・資金計画のポイント) |
| マンションライフサイクルシミュレーション | 住宅金融支援機構 | 建物規模・築年数に応じた平均的な大規模修繕工事費用などを試算できる |
| 長期修繕計画・修繕積立金算出サービス | マンション管理センター | 長期修繕計画と修繕積立金の目安を算出するサービス |
管理組合はどう受け止めるべきか ― 当事務所の見解
今回の通知で注目すべきは、国が「設計・監理方式」そのものを問題視しているのではなく、設計コンサルタントの中立性が確保されない運用を問題視している点です。設計コンサルタントが施工会社の選定を事実上取り仕切り、管理組合が結果だけを承認する形になっていれば、談合の温床になりえます。管理組合として最低限確認したいのは次の4点です。
- 施工会社の選定主体を管理組合に置く:公募・見積依頼先の決定・ヒアリング・最終決定は理事会や修繕委員会が主体となり、設計コンサルタントは技術的な助言と比較資料の作成に役割を限定する
- 見積の第三者チェック:住まいるダイヤルの無料見積チェックサービスなど、設計コンサルタント以外の目で見積内容を確認する
- 談合違約金特約条項の導入:請負契約に特約条項を設け、弁護士等に条文を確認してもらう。条項の存在自体が談合の抑止力になる
- 設計コンサルタントとの契約内容の点検:施工会社の紹介・推薦や、施工会社からの手数料受領を禁じる条項があるか、業務範囲と報酬が明確かを確認する
当事務所では、設計監理方式の大規模修繕コンサルティングにおいて、施工会社の選定は管理組合が主体となって行い、当事務所は技術評価と比較資料の提供に徹する体制をとっています。談合を排除し、工事費を適正化する進め方については、関連記事と「管理組合支援とは何をする仕事か」もあわせてご覧ください。
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「マンション大規模修繕工事の談合報道と管理組合の自衛策」
2026/9/30
2026年6月、マンション大規模修繕工事をめぐる談合で38社に排除措置命令が出される方針と報じられました。排除措置命令とは何か、管理組合への影響と、今できる自衛策を独立系の立場から解説します。
マンション管理士・一級建築士が、談合排除と工事費適正化の観点から管理組合をサポートします。セカンドオピニオンのみのご相談も承ります。
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出典
・国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知等について」(令和8年9月28日、国住参マ第168号・国不建第83号)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002024468.pdf(別添・別紙を含む8頁)
・国土交通省「マンション修繕工事に係る請負契約における談合違約金特約条項について」(令和7年6月26日付事務連絡、上記PDFに別紙として収録)
・公正取引委員会 令和8年9月28日公表資料 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/sep/260928_daiyon.manshon.html
※本記事は公表資料に基づき当事務所が作成した解説であり、個別の契約条項の設定にあたっては弁護士等の専門家にご相談ください。(2026年10月15日公開)