初めての大規模修繕工事に取り組む管理組合へ
大規模修繕工事と長期修繕計画
マンションの共用部分の修繕工事は1970年代中頃から始まりました。当時の分譲共同住宅は質よりも速さを優先して建築され、不具合が頻発しました。そのため、管理組合が原因追及や補修に積極的に取り組むようになり、マンション大規模修繕工事の概念が生まれました。
現在、新築されるマンションは多様化しており、大規模修繕工事も性能向上や長寿命化改修にも力を入れています。大規模修繕工事とは、共用部分の劣化を改善し、基本性能や美観維持を目的とする工事です。
マンションの寿命には明確な基準はありませんが、管理組合は定期的に修繕工事を行い、共用部分の機能を維持します。そのため、長期修繕計画を立て、必要な費用を修繕積立金として各区分所有者から徴収します。
初めての大規模修繕の位置付け
現在、新築マンションには長期修繕計画が整備されており、多くのマンションは築後約12年で初めての大規模修繕工事を実施しています。建築技術者から見ると、築10~15年の建物はまだ新しく、重大な劣化や性能低下は少ないです。しかし、新築時の施工不良や使い勝手の悪さなどを改善する機会となります。
一般的なマンションの初めての大規模修繕工事の内容は以下の通りです。
・鉄筋コンクリートのひび割れ、欠損等の不具合、劣化の躯体改修 ・タイル等の浮きや剥がれの補修、清掃 ・外壁等の塗装上塗り ・屋上防水の修繕、バルコニーや廊下防水の修繕 ・目地や取合いのシーリングの打替え ・スチール製品の塗装 ・手摺や窓、エントランス周囲の建築金物・建具の修繕・清掃 |
どんなタイミングで始めるのか
長期修繕計画は、共用部分の劣化予測を元に作成されるものであり、工事の実施時期に必ず工事をしなければならないという強制力はありません。大規模修繕工事の予定時期の約2年前から準備を進めると良いでしょう。工事内容や資金計画の検討には時間がかかるため、着工直前に急いで進めるのは避けるべきです。
大規模修繕工事の具体的な内容はどうするか
長期修繕計画に予定されている工事内容は必ず行う必要はありません。劣化状況や社会情勢に応じて柔軟に対応することが重要です。例えば、外壁のタイルの浮きやコンクリートのひび割れなどの修繕費用は予測できない場合があります。また、居住者の要望による改善工事を同時に行うこともあります。一方、劣化が進んでいなければ、工事を次回に先延ばしすることも可能です。費用対効果や材料選択を考慮して工事内容を再検討する必要があります。築年数が経過すると支出が増える傾向にあるため、初めての大規模修繕工事では資金計画を慎重に検討することが重要です。
大規模修繕工事の内容は、誰に相談するか
柔軟な対応は大規模修繕工事の満足度を高めるのに重要ですが、その内容を検討するのは管理組合です。劣化実態や要求に合わせた工事を行うためには、専門知識を持つパートナー(コンサルタント等)に相談し調査や改修設計を依頼します。設計事務所、管理会社の設計部門、施工会社、マンション管理士事務所などがパートナー候補です。技術力や提案力だけでなく、管理組合と協力して利益を守る姿勢が求められます。費用だけでなく業務提案、技術力、コミュニケーション能力を確認し、担当者と面談することが重要です。工事後もアフター点検や長期修繕計画の見直しなど関わりが続くので、信頼関係を築くことが重要です。管理会社は日常管理とは異なり、期待と役割にズレが生じないよう注意が必要です。
管理組合の体制
管理組合は工事の種類や時期、施工会社と予算を決定します。理事会が検討し総会で決議しますが、専門知識や時間に余裕のある理事がいるとは限りません。大規模修繕工事には約2~3年かかり、その間に内容、時期、会社選定、金額、対応などを総会で合意する必要があります。このため、修繕委員会などの専門委員会が設置され、理事会に代わって検討します。委員の任期は工事終了までが一般的であり、多様な視点で公平に検討することが望ましいです。
進め方
初めての大規模修繕工事は、多額の出費を支出するため区分所有者同士で検討し、様々な意見がぶつかり合う初めての機会となることが多いと思います。進め方に熟練した専門委員会があるわけではなく、多くは手探りで進めていくのではないでしょうか。
下図に大規模修繕工事のフローを挙げますので、進め方の参考にしてください。
進め方は一般的に、
・調べて知る(調査診断) ・計画する(修繕計画・資金計画の立案・見直し) ・具体的な工事の内容を図書にまとめる(設計) ・工事を実施する(工事) |
となり、マンション規模の大小にかかわらず殆ど同じと考えて良いでしょう。
まず、管理組合の体制を整え、信頼できる専門家を選びます。マンションの劣化状況や区分所有者の要望を調査・診断し、必要な修繕内容を確認します。
次に、調査結果をもとに修繕計画・資金計画を見直します。長期修繕計画作成ガイドラインも参考にしてください。修繕工事の設計では、仕様書や図面を通じて具体的な計画をまとめ、生活への配慮も考慮します。
施工者を決定後、工事が始まります。コンクリート補修や外壁塗装の色彩計画など、決定すべき事項が続きます。これらは管理組合が最終的に判断します。足場解体前や竣工前には出来具合を確認してください。
工事完了後には、総括を行い、次回の大規模修繕に向けた計画を立てることをお勧めします。将来の計画修繕工事に備え、不安の少ない計画を目指しましょう。