マンション管理の基礎知識

災害時のトイレ使用マニュアル

その1)災害時のトイレ使用の基本的な考え方

はじめに

大地震など災害が発生したとき、排水設備が破損していないかを確認しないで水を流すと、上階の汚水が下階で溢れるなどのトラブルが発生することがあります。

しかし、災害発生時、設備業者にすぐに点検に来てもらうのは難しいと考えられます。
(公社)空気調和・衛生工学会集合住宅の在宅避難のためのトイレ使用方法検討小委員会では、「集合住宅の災害時のトイレ使用マニュアル作成手引き」を作成し、2020年6月、学会ホームページに公開しました。本手引きは、学会ホームページの「委員会からのお知らせ」※からダウンロードできます。
本稿では、手引きの基本的考え方と概要、次号では、標準的な対策フローについて概要を述べます。

基本的な考え方

1) 目的

本手引きは、災害時の「在宅避難」を実現するために、マンション管理組合、管理会社、施工会社が協力して「災害時のトイレ使用マニュアル」を作成することを目的としています。

2) 適用範囲

マンションの自宅トイレを含む給排水設備で、トイレ使用に関わる範囲に限っています。

自宅のトイレ以外の災害用トイレの準備も必要ですが、災害用トイレについては、NPO法人日本トイレ研究所のホームページや発行されている冊子を参照します。
対象とするマンションは、災害発生時、建物の柱や床に損傷がなく、居住可能なマンションを前提にしています。建物の安全性が確保できない場合は避難します。

また、災害時の安否確認、損傷確認などは、各マンションの「防災マニュアル」と整合させることが必要です。

3)マニュアル作成手引きのポイント

以下にポイントを示します。①は、一般に言われていることと同じですが、②~⑤が、本手引きのポイントとなります。

①大地震発生時は、トイレの水は流さないで「携帯トイレ」を使います。

②その間に、目視で大まかな損傷をチェックし、損傷がなければ、異常発生の兆候がないか、チェックしながらトイレを使います。

③通水試験は、試験に多量の水を必要とし、また、正しい判断が困難なので推奨しません。

④断水時、水が確保できる場合は、バケツ洗浄を推奨します。

⑤トラブルの発生を、最小限にすることを目標にしています。

手引きの概要

本手引きの構成は、以下の通りです。見出し毎に「解説」を記述しています。
・動機付け
・事前作業
.震災時の対策フローの作成
・バケツ洗浄の実施
・風水害時の対策フロー
本稿では、以下に「動機付け」、「事前作業」について述べます。

l) 動機付け

マンションでは、居住者全員の協力がなければトラブルを防ぐことができません。そのために、マンションの排水設備を知ってもらい、「災害時のトイレ使用マニュアル」策定の必要性を居住者に理解していただきます。

手引きでは、管理組合から居住者に説明することを想定して、スライド形式で必要性を記述しています。図1はスライドの一例ですが、震災による排水設備の破損を示しています。

災害時トイレ

2)事前作業

災害発生時、マンション居住者自身で設備を点検できるように、給排,水設備の調査を行い、点検箇所を決めます。

①図面作業

図面から給水方式や排水設備を確認し、各住戸の排水設備がどうつながっているか、また、建物から下水道までどこに配管が通っているかを把握します。

居住者に建築設備の専門家が住んでいれば、その方に協力してもらうことがポイントです。専門家がいなければ、外注するか、また業者が見つからなければ、管理会社や建設会社に相談し、業者を紹介してもらいます。

②現地確認

実際に、現地で給排水設備を確認し、発災時の点検箇所を把握します。

現地確認は、マンションの排水設備の理解に役立ちますし、発災時に速やかに動けるだけでなく、被害を受けやすい部位を事前に把握して、耐震補強することにもつながります。

③点検箇所図の作成

図面作業、現地確認を行った後、誰でも分かるように、点検箇所図を作成します。担当者が交代した時でも分かるように、点検箇所の写真を添付しておくと良いでしょう。

図2は専有部分の点検箇所と点検方法、図3は屋外配管の点検箇所と点検方法を示した例です。

専有部分点検箇所図

屋外配管点検箇所図

まとめ

本稿では、「動機付け」と「事前作業」の概要を記述しました。

マンションの給排水設備は様々です。まず、自分のマンションの給排水設備を理解して点検箇所を決めます。


その2)災害時のトイレ使用について

はじめに

前号に引き続き、その2) では、災害が発生したときのトイレ使用についての標準的な対策フロー、バケツ洗浄、風水害時の対策フローについて説明します。

災害時トイレ対策フロー

標準的な対策フロー

事前作業でマンションの給排水設備の把握が完了したら、管理組合の合意に基づいて、トイレ使用の可否判断ルールを「対策フロー」として決めます。

マンションによって排水設備の仕様は異なり、判断基準も異なると考えられます。

しかし、みんなで決めたルールに甚づいて判断することによって、判断ミスや判断責任のリスクを回避することができると考えます。
標準的な対策フローを図1に示します。4ステップのうち、特に「緊急点検ステップ」と「機能点検ステップ」がポイントとなります。この対策フローに沿ってトイレ使用マニュアルを作成します。

緊急点検ステップ

災害が発生した直後が、緊急点検ステップです。
管理組合(理事長、理事会など)の指示に基づきマニュアルを発動します。緊急点検ステップでは、別途、各マンションの防災マニュアルに甚づく居住者の安否確認や建物の損傷確認が必要です。建物に大きな損傷がなく、居住可能と判断されることが前提です。
マニュアル発動に基づき、各住戸は、トイレからの排水を禁止します。したがって、携帯トイレの使用が不可欠となります。一方、管理組合は、建物・敷地(受水槽、排水桝、地盤の隆起・沈降など)の損傷等の有無を外観目視で確認します。
損傷が認められたときのトイレ使用の可否判断として、「携帯トイレの使用を継続、影響範囲を特定し、影響のない範囲でトイレ使用を再開する」、または、「やむを得ず、トラブルが発生するまでトイレ使用を再開する」ことが考えられます。後者の場合、復旧費用が増大する恐れ、水道復旧後も排水できないリスクがあります。

機能点検ステップ

緊忽点検ステップで損傷がなければ、排水設備の異常発生の兆候に注意しながらバケツ洗浄(団参照)により、トイレ使用を開始します(断水時に水が確保できる場合) 。

暫定使用ステップ

機能点検ステップで異常発生の兆候がなければ、引き続き異常発生の兆候をチェックしながらバケッ洗浄を継続します。

機能点検ステップで異常が発生しなくても、バケツ洗浄を継続した後にトラブルが発生することがあるからです。管理組合は、第一桝(注1)
での排水の流れを点検します。各住戸は、大便器の便座蓋を閉めておき、蓋を開けたときに裏が濡れていないか確認します(排水管の詰まりなどがあると行き場のなくなった空気や排水により、下階の便器で封水の跳ね出しや排水が溢れたりします。) 。
注1:第一桝とは、建物内から敷地内に出た所にある最初の桝をいいます。

復旧点検ステップ

復電確認、ポンプ試運転、給水配管の点検、水槽・配管洗浄は、専門業者にお顧いできるように準備しておきます。
また、長期間断水した配管内の給水は雑菌が繁殖している可能性があります。断水が復旧し、送水を開始した後、各住戸では「フラッシング」(注2)を実施します。配管内のエアーが抜けやすいように、先にキッチン水栓や洗面水栓を開栓し、トイレ洗浄水は最後に流します。
注2:フラッシングとは、配管内を水洗浄して配管内の汚れや異物などを除去する作業をいいます。

バケツ洗浄

断水時、なるべくトイレ洗浄の水量を少なくするため、洗浄力の高いバケツ洗浄を提案しています。
ポイントは、図2に示すように便器の汚物を、直接後ろから押し出すようにバケツで水を流すということです。

ここで汚物より前に水が流れてしまうと、汚物を押し出す力につながりません。ただ、勢いが強すぎたり、水が多いと、便器の周りに水が飛んで濡れてしまいます。

なお、流す水の節約と排水管の詰まり防止のため、トイレットペーパーは一緒に流さないようにします。
なお、ロータンクから流すと水量が倍以上必要となりますし、ロータンクの蓋が開かなかったり、後で復旧できなかったりトラブル要因となるので、バケツ洗浄を推奨します。

バケツ洗浄

風水害時の対策フロー

風水害に対しても、4ステップのうち、該当するステップで対応することができます。

1) 水害時の対策フロー

①床下浸水時は、大便器の通常洗浄・バケツ洗浄を不可とし、携帯トイレを使用します。
②水が引いた後「機能点検ステップ」を実施します。
③「暫定使用ステップ」は省略します。
④電気設備や給水設備(ポンプ等)が水没していなければ「復旧確認ステップ」も省略します。

2) 風害時の対策フロー

①給水設備に被害がないか点検します。
②停電し断水している場合で、水を確保できる場合は、バケツ洗浄を開始します。ただし、汚水槽は、汚水をくみ上げる水中ポンプが稼働しないため注意が必要です。洗浄水がなければ、携帯トイレを使用します。「機能点検ステップ」・「暫定使用ステップ」は省略します。
③長期間断水した場合には、復電し断水が復旧した後、フラッシングを実施します。

おわりに

風水害に対しても、4ステップのうち、該当するステップで対応することができます。

1) 水害時の対策フロー

①床下浸水時は、大便器の通常洗浄・バケツ洗浄を不可とし、携帯トイレを使用します。
②水が引いた後「機能点検ステップ」を実施します。
③「暫定使用ステップ」は省略します。
④電気設備や給水設備(ポンプ等)が水没していなければ「復旧確認ステップ」も省略します。

2) 風害時の対策フロー

①給水設備に被害がないか点検します。
②停電し断水している場合で、水を確保できる場合は、バケツ洗浄を開始します。ただし、汚水槽は、汚水をくみ上げる水中ポンプが稼働しないため注意が必要です。洗浄水がなければ、携帯トイレを使用します。「機能点検ステップ」・「暫定使用ステップ」は省略します。
③長期間断水した場合には、復電し断水が復旧した後、フラッシングを実施します。

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