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判例-理事を批判する組合員によるビラ投函と名誉毀損に基づく損害賠償請求

【判例-理事を批判する組合員によるビラ投函と名誉毀損に基づく損害賠償請求】

判例-理事を批判する組合員によるビラ投函と名誉毀損に基づく損害賠償請求

1.事案の概要

原告Xは、当該マンションの区分所有者の妻であり、Aマンション管理組合の理事です(注l)。被告Ylは、店舗部会選出の理事を長期間務めていましたが、平成24年12月21日から務めていた理事長を平成25年10月18日に辞任し、平成26年6月27日の管理組合の総会では理事を解任されました。

被告Y2は、店舗部会選出の理事を数期務め店舗部会選出の副理事長を務めたことがありましたが、平成25年5月に理事辞任届を提出し、同月31日の理事会で辞任承認の決議が行われました。

当該マンションは、地上9階・地下2階建て、住戸81戸、事務所25戸、店舗26戸、倉庫9戸等からなり、入居者および組合員は100名を超えています。

被告らは、平成29年4月21日、A管理組合理事長、A管理組合副理事長を名乗って、原告が管理組合の理事会を乗っ取ったなどという下記趣旨の文章を記載したビラを作成して、同日頃、マンションの各戸のポストに投函しました。

①現理事らは適法な選任手続を経ていないにもかかわらず、理事を名乗り理事の職務を行っており、原告およびその他の理事らは単なる乗っ取りグループである。

②原告は、有能な理事を追い出し、議員をも脅し、理事長に濡れ衣を着せ、高齢者からは友人を引き離し、住み慣れた人を引っ越しさせ、数人の方々には名誉毀損を重ねてきた。

③原告は、非組合員で役員の資格がないにもかかわらず(注1)、病身のB副理事長から無理やり全組合員の財産ともいえる理事長印など印鑑を取り上げ、B夫婦が返還を求めても一切応じない。

④上記③の記載を前提に論評と意見を記載

⑤(その他省略)

原告は、それらのビラによって名誉を毀損され、精神的苦痛を被ったと主張して、平成29年7月1日、不法行為(民法第709条および第710条)に基づ<損害賠償請求訴訟を提起し、慰謝料200万円と遅延損害金の支払いを求めました。被告らは、このビラは、・管理組合運営の正常化を訴えたものであり、事実を記載したものであって違法性はない、

•原告らの行為が区分所有法に違反する違法行為であることについて、区分所有者の理解を得る目的の正当な活動である、

・指摘した事実を真実であると信じたことに相当の理由がある、

・組合運営の適正化という公益目的によるものである、

•平成25 年12月13日のビラを根拠とする損害賠償請求権は時効(3年)によって消滅した。

と反論しました。

2.名誉棄損に関する本件裁判所の判断

(1) 名誉毀損の成否について

本件ビラの記載は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、原告らは正当な手続を経ずに管理組合を支配する集団であるとの消極的な評価を伴うものである、原告が不正な手段をも使う人物であるとの消極的な印象を与えるものである、原告が脅しや名誉毀損などの違法な行為をも行う人物であるとの消極的な印象を与えるものである、原告が正当な理由もなく資格がなければできないことを無理やり行う人物であるとの消極的な印象を与えるものである、と認めました。

被告らが摘示した事実が、その璽要な部分について真実であることの証明があったとはいえず、また、被告らにおいて当該事実を真実と信じるについての相当の理由の立証もない。よって、違法性は阻却されないとしました。

(2)損害について

原告が日常的に居住するコミュニティでの社会的評価に相当程度影響を与えるものとなり得ることに加え、一切の事情を考慮すると、その賠償としては100万円が相当であるとしました。

(3)消滅時効について

本件文書に平成25年12月13日付けの文書が添付されていることが認められるが、本件文書そのものは平成29年4月21日に配布されたのであって、消滅時効の起算点は本件文書の配布時とすべきであるから、損害賠償請求権が時効によって消滅したとは認められないとしました。

3.解説

(1)管理組合の内紛への対応

管理組合において内紛がありますと、誹謗中傷のビラや文書が配布されたり、貼られたりします。

怪文書が配布されることもあります。

こうしたビラや文書を配布する方の怒り、悔しさ、正義感は分からなくもありませんが、誹謗中傷をするのではなく、客観的事実を記載して、法律や管理規約等に抵触しない方法で、組合員の共同生活を守るために理解を求めるべきです。

また、区分所有者間の仲が悪化した事例では、誹謗中傷合戦を行うことがあり、その際に、管理組合としてどのように対応するかを悩むことがあります。

管理組合としては、中立の立場で他の組合員に迷惑が及ぶことがないよう配慮すること、組合員の皆様の共同生活やマンションの管理に支障が生じることがないように注視すべきです。

(2)名誉棄損の成否

私たちの国では表現の自由が保障されていますが、表現が行き過ぎて他の個人・団体の人格や名誉・信用を害することは許されません。

古くから名誉毀損が成立するかどうかが問題となってきました。

名誉毀損の成否の基準を示したものとして最判昭和31年7月20日(民事判決集10巻8号1059頁)、最判昭和41年6月23日(判夕194号83頁)があります。

事実を摘示したものであっても、一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した場合に、人の社会的評価を傷つけるものと認められる場合、名誉毀損が認められます。

しかし、表現の自由はより良い社会を形成するために極めて重要なものですから、

①その行為が公共の利害に関する事実であり、

②もっばら公益を図る目的に出たこと、

③摘示された事実が真実であることが証明されたことにより、権利•利益侵害(違法性)の要件が欠けるとされます。

③が充たされなくても、

④真実と信ずるについて相当の理由があるときには、故意・過失の要件が欠けるとされます(最判平成9年9月9日判夕955号115頁)。

意見や論評としての表現については、人身攻撃に及ぶなど意見・論評の域を逸脱したものでない限り、違法性を欠くとされます(最判昭和62年4月24日判夕661号115頁) 。

本件でも、被告側から名誉毀損は成立しないとの主張がありましたので、裁判所は最高裁判決に従って判断して名誉毀損を認め、違法性の阻却を否定しました。

次に、参考となる類似の先例を紹介します。

(3)管理会社を批判する文書の配布が管理会社の信用・名誉を毀損するが、違法性が阻却されるとされた裁判例(東京地判平成7年l l月20日判時1562号83頁)

区分所有者のYが管理会社Xについて、当管理組合の民主的運営を求める緊急公開状と題する文書をマンションの各戸に配布し、その中で、「Xは登録専門工事(塗装・防水)業者ではない」「Xの会社の内容は、当管理組合の預金証書とそれに使用できる組合の印鑑を一緒に預託できる程の会社内容ではない」と記載していました。

管理会社Xは、Yを被告に損害賠償と謝罪文の配布を求める訴訟を提起しました。

判決は、当該記載は原告の社会的評価を低下させるものであるが、本件マンションの管理組合の運営という公共の利害に関する事項にかかり、被告は真摯に本件管理組合のことを考えて本件文書を配布したものであり、私利私欲を図り、あるいは原告をことさらに誹謗中傷するなど不純な動機により本件文書を配布したとは認められないから、もっぱら公益を図る目的に出たものというべきである、本件記載部分は、真実であるか、または被告がそのように信ずるにつき相当な理由があったというべきであるから、不法行為を構成しない、としました。

4.違法ビラ配布への管理組合に対する対応策について

(1)管理規約や管理組合規定による対応

標準管理規約67条1項に、「区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が、(中略)共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる」と定めています。

勧告、指示、警告ということばを使用して、違反状態の是正、違反行為の中止、原状への回復を求めることが考えられます(注3)。

同条3項には、訴訟その他法的措置を追行することができると定めています。

理事会では、配布されたビラの記載内容や配布行為の回数を確認し、それによって区分所有者や人居者の共同生活の秩序を乱すものかどうか冷静に判断することが求められます。

該当すると判断した場合は、同様の趣旨のビラの配布の禁止を決議して、理事長において執行することになります。

(2)区分所有法第6条1項および第57条に基づく差止め

区分所有者によって誹謗中傷が繰り返され、理事らの業務執行に支障が生じる場合には、裁判によって誹膀中傷行為を止めることができないのかを理事の皆様は検討するでしょう。

その契機を与えたのが次の最高裁判決であり、区分所有法6条、57条です。

事案は、区分所有者Yが管理組合の役員らを誹謗中傷する文書を配布し、電柱に貼付するなどの行為を繰り返すほか、防音・防水工事を受注した業者に電話をかけて辞退を求めるなどしているため、防音工事の円滑な進行が妨げられ、また、管理組合の役員就任者がいなくなり運営が困難な事態を招くようになり、管理組合の総会で差止め訴訟の提起と区分所有者Xを訴訟追行者と指定する決定を行い、Xが差止め訴訟を提起しました。最判平成24年1月17日(判夕1366号99頁)は、「マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らを誹謗中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対する誹謗中傷等の域を越えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、区分所有法6条1項所定の『区分所有者の共同の利益に反する行為』に当たるとみる余地がある」と判断しました。

そして最高裁は原判決を破棄し、同法57条の要件を満たしているか否かにつき審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻しました。

区分所有法57条は、同法6条1項が区分所有者の共同の利益を守るための団体的権利を定めたものであることを前提とした上で、その権利の行使の方法を定めたものです。

同法6条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」には、単に財産管理的観点からの共同の利益だけでなく、いわゆる共同生活的観点からの共同の利益も当然に含まれます。

この事案は単なる特定の個人に対する誹謗中傷の域を越えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理または使用を阻害される場合には、区分所有者の共同の利益を守るため同法57条1項に基づいて差止め等を求めることを認めたものといわれます。

(3)区分所有法第59条、第60条に基づく対応

区分所有者や賃借人等がマンションの共同生活に支障をもたらす行為を繰り返す場合に住戸からの退去を求めることができないか、さらに、区分所有者に対し区分所有権の競売を請求することまで行うことができないかといった方法も考えられます。

区分所有者である母親から、その専有部分を使用貸借している息子が、昼夜を問わず条例の基準値を上回る騒音や振動を継続して生じさせたり、他の居住者に「死ね」等と叫んだりする行動を続け、全21戸中少なくとも18戸の居住者に軍大な被害を生じさせ、また管理業者の立入りを拒絶して配管清掃や消防設備の点検が実施できない状況にある事案において、東京地判平成17年9月13日(判夕1213号163頁)は、法60条に基づき使用貸借契約の解除および引渡請求を認容し、区分所有者と占有者の一体性と、区分所有者に問題を解決する意思や能力が欠如していること等から、法59条に基づく競売請求をも認容しました。

5.その他、管理組合の運営に参考となる事項

(1)理事長の辞任と理事長印の保管者について

冒頭の事例では、当該管理組合理事会は、平成25年11月26日、当時のC理事長が辞任届を提出したことを踏まえ、これを受け入れる旨の決議をしています。

役員への就任は、法律上役員個人と管理組合(法人または権利能力なき社団)との委任契約です。

民法651条1項を根拠に役員は任意に辞任することができます。

しかし管理組合にとって不利な時期に辞任した場合は同条2項に基づき損害を賠償しなければならないことがあります。

役員の辞任について管理組合規約や管理規定(管理組合の組織・運営・業務並びに集会等を定めているもの)で理事会の同意を条件とすることの効力について争いがあります。

当該管理組合の理事会で理事長辞任受け入れの決議をしたということですが、これは辞任に同意したというよりも、法律上は管理組合にとって不利な時期であったとしても損害賠償請求権を放棄するという決議と理解できます。

当該管理組合規程には、副理事長は、理事長を補佐し、理事長に事故があるとき、または理事長が欠けたときは、その職務を代行する、と定められています。

理事会は、原告Xの夫が副理事長でしたので夫が理事長の職務を代行すること、同人が理事長印を保管することを決議しました。

(2)理事会への代理出席について

その際の理事会には、原告の夫ではなく原告が代理出席しています。

役員は人柄や能力を見込まれて総会で理事に選任されます。理事会に選任された理事本人が出席して理事会が運営されることを想定しています。

それゆえ、代理人が出席することができるかどうかは問題がありますが、実際には理事は毎回理事会に出席できるとは限りません。

そこで本組合の管理組合規約では、代理人が出席できると定められています。

(3)店舗部分の区分所有者からの理事選任の要否について

当該マンション管理組合では、慣例として店舗部会からの推薦に碁づいて理事が選任されていました。

慣例に従わずに立候補制で理事を選任したことが管理規約違反、選任手続の瑕疵かどうかが争われました。管理組合規約には理事の選任は部会の推薦に従わなければならないとは定められていません。

また、立候補制を採ったことで総会の理事選任権を制約したとはいえません。したがって、規約違反でも選任手続に瑕疵があるとも認められません。

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